「まさに最先端のアクション映画なのに、あえてのバタ臭さがむしろ心地いい一作」密輸 1970 yuiさんの映画レビュー(感想・評価)
まさに最先端のアクション映画なのに、あえてのバタ臭さがむしろ心地いい一作
キム・ヘスらの身体を張った水中アクションはもちろん本作最大の見どころで、シンクロナイズドスイミングを思わせるような優美な動きはこれまでの海洋アクションの常識を覆すほど。
しかもクライマックスに至る布石の打ち方も見事で、裏切りあい、騙しあいが重なり合う複雑な物語であるにも関わらず、筋道が見えなくなって見せ場に入り込めなかった、という事故が極めて起こりにくい作劇となっています。
スンワン監督は『モガディシュ 脱出までの14日間』(2022)でも卓越した物語構成力と演出力を示しましたが、本作でさらにその才能を更新した感があります。
アクションの質といい、脚本のきめ細かさといい、既存のアクション映画の知見を膨大に取り込みつつ一つの作品にまとめ上げて見せた、まさに現時点における最先端のアクション映画の一つであることは間違いないのに、時代がかった韓国の歌謡曲をガンガンにかけるあたり(舞台が1970年代の韓国の漁村なので、選曲としては妥当なのでしょうが)、スタイルの確立においては我流を貫く、というリュ・スンワン監督の強い意志が透けて見えます。
キム・ヘスら主人公の海女たちの活躍に目が向きがちなのですが、悪役を演じた俳優たちの(内容に触れるのであえて名前は伏せますが)、小ズルさや非道さを前面に押し出した演技が、実に憎らしく、倒し甲斐のある敵としての存在感を放っており、それが作品の魅力を一層高めていることは間違いありません。特に突然の凶行が発生するある場面の衝撃は、驚くというよりもむしろあっけにとられてしまうほど。
酷暑の続く現在だからこそ、本作の海中映像は一服の涼をもたらすはず……なんですが、本作もう一つの見せ場である、銃器ではなくなぜか刃物を多用した密閉空間での格闘場面は、暑苦しいうえに血なまぐさいので、テンション上昇と合わさって、むしろ体感温度は上がりまくるかも!