「ソダーバーグ流犯罪映画をお手本に、韓流の野暮ったさと70年代レトロがいい塩梅」密輸 1970 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)
ソダーバーグ流犯罪映画をお手本に、韓流の野暮ったさと70年代レトロがいい塩梅
スティーブン・ソダーバーグ監督の「ローガン・ラッキー」あたりをお手本にしたのではなかろうか。強盗や金庫破りといった大掛かりな犯罪計画のためチームを組んで取り組む主人公側と、立ちはだかる敵対組織、取り締まる警察などの三つ巴、四つ巴の駆け引きを描く犯罪スリラーはソダーバーグ監督の得意ジャンルだが、プロ集団がスマートに事を成す「オーシャンズ」シリーズに比べると、主人公側が頼りなくて思わず手を貸したくなる感じが、「ローガン・ラッキー」のアンラッキーなローガン兄弟を中心とするポンコツ即席チームに通じる。
脚本も兼ねることが多いリュ・スンワン監督の過去作を振り返ると、スパイ活劇「ベルリンファイル」や警察ものの「ベテラン」など、韓国映画らしいスタイリッシュなスリラーの範疇に収まっていた。だが、この「密輸 1970」は題にも含まれるように1970年代に時代を設定してファッションとBGMでレトロ感を醸しつつ、主人公たち海女さんチームが微妙にダサくて野暮ったいのが実にいい塩梅なのだ。一度漁村を離れるも戻ってくるチュンジャ役のキム・ヘスは余貴美子似、海女たちをまとめるジンスク役のヨム・ジョンアは木南晴夏似で、韓国の基準でも日本の基準でも典型的な美人枠ではないだろうが、彼女らのイケてない感じもまた泥臭く悪戦苦闘するキャラクターにぴたりとはまっている。
おそらく日本以上に女性が虐げられ抑圧されていた70年代の韓国で、利用し搾取する側の男社会の組織を海女さんチームが知恵と勇気と絆で出し抜こうとするストーリーは、ある種のファンタジーを含むとはいえ、現代の女性やマイノリティーたちをエンパワーする効果も期待できそうだ。