「また明日!」骨なし灯籠 TSさんの映画レビュー(感想・評価)
また明日!
あるきっかけで知った映画。
熊本の山鹿という街、山鹿灯籠まつり、和紙でつくられる山鹿灯籠のどれも知らなかった。
配給会社もつかない低予算の街おこし自主制作映画。
そんな先入観を完全に覆してくる。
何と言っても画が美しい。
監督は、撮影には特に拘り、信頼置ける実力者に拝み倒して引き受けて貰ったのだという。
撮影されているのは、熊本県山鹿市内のほんのごく一部のエリア。しかし、そのごく限られた中に、美しく豊かなものがギュッとあるということが伝わってくる。街並み、街道、灯籠、橋、川、鯉、草木、花、虫。
どれも特別なものではないのに、特別なもののように感じる。
そして脚本。
長くテレビドラマの脚本家として活躍してきた監督。倉本聰の門下生ということだが、この落ち着いたストーリーの中に、いくつもの小さな伏線を張り巡らせ、それを後半一気に回収してクライマックスに持って行く話の運びは見事だった。
山鹿灯籠まつり本番の場面がクライマックスと思い込んでいた。
美しく、幻想的な灯籠と踊りの映像を想像していた。当初の脚本ではそうなっていたらしい。ところがコロナで本番は中止に。
急遽書き換えられたクライマックスシーン。
こちら側とあちら側。
二人だけがわかるサインでメッセージを交わす。
そのメッセージは、無音のシーンの中で、力強さと暖かさを持って、届いた。
細かい設定に、所々、整合がつかない粗さも感じた。
だが、そうした粗が気にならなくなるような映像と、練られたストーリー展開、メッセージ性のある映画だった。
地元熊本では5ヶ月のロングラン。
東京での上映も果たしたが、配給元はつかず、手探りでの全国展開が続いているらしい。
この手の映画で興行拡大は厳しい道のりだと思うが、少しでも多くの方に知って貰いたい、観て貰いたいと思える小さな良作。
山鹿灯籠まつりをこの目で見てみたい。
「行ってみたい」「見てみたい」はご当地映画としての出来がよいからこそですよね。
灯籠まつり中止は残念でもありましたが、過去映像は入ってましたし、意外性という意味ではむしろアリでした。
地味ではありますが本当に画が素晴らしかったし、もっと知られてほしいです。