劇場公開日 2025年3月20日

「やや細かい知識が要求されるがおすすめ枠か(補足入れてます)」教皇選挙 yukispicaさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5やや細かい知識が要求されるがおすすめ枠か(補足入れてます)

2025年3月30日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

今年96本目(合計1,638本目/今月(2025年3月度)30本目)。

 日本ではダジャレ用語としての「根比べ」なんていいますが、実態(この点後述)は映画のように投票の繰り返しで、その中でいろいろな駆け引きがあるものです(もっとも、この作品それ自体は架空のお話ですが、歴史上、この投票は何度も行われている点は事実なので、その点においては「やや」ドキュメンタリー映画という観点「も」存在はする)。

 その選挙をするために各国から大司教がやってきて投票を繰り返す…のですが、いろいろな国からきているため、出てくる言語が結構多く(イタリア語、フランス語、スペイン語のほか、当然、教会ラテン語まで登場する)、なかなかマニアックだなぁ…といったところです。ただ、ストーリー「それ自体」は架空のものとしても、なかなかマニアックな知識が要求されたり、さすが良い作品だなといったところです。

 当然、このような作品であるため特殊な専門用語も多く(ただし、補助字幕は一切出ない)、中には関係者(?)の方しかわからないのでは…といったマニアックな語も出ます(一応、日本は漢字文化圏なので、漢字から推定可能)、字幕の補助として聞いている字幕も、単語が極端にマニアックで(英検1級でも足りないか。極端にハイレベルな用語が登場するなど。ただ、分野偏りのようで、大半はわかるレベル)、日本では補助字幕など工夫があればよかったかな、といったところです。

 採点上、以下はちょっと気になったので書いておきます。

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 (減点0.3/「イタリアは40年以上代表を出していないんだぞ」の発言)

 more than 40 years ですが、more than は「その値を含まず、その値より大きい」しか意味しないので、これだと「40年と1秒以上」にしかなりません(40年ちょうどを含まない)。ただ、この誤訳は結構どの映画でも見られるため減点幅は通常0.2の固定幅の扱いのところ、この映画の趣旨的に解釈が変わってしまう恐れのある誤訳であり、減点幅をあげています。
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 (減点なし/参考/教会法(カノン法)とこの映画、および日本などとのかかわり)

 ヨーロッパではイエスキリストの時代から法律という概念はなくても、実質的に民法商法といった概念は「概念としては」存在しましたが、近現代になって法の考えが確立していったとき、教会に対して、信者に対して適用される法、あるいは教会内部でのみ有効な法という概念が確立しました。これを教会法(カノン法)といいます。映画内でも字幕でちらっと出てきます。

 映画の中で延々と投票を繰り返しているシーンも実はこのカノン法由来のもので、通常の選挙であれば、こういった場合、決選投票(上位2人か3人。2人が通常多い)として「他には投票できない」というルールが一般的ですが、「現在でも有効な」、映画内でもとられる投票制度は「決選投票は通常用いず、議論を経て3日たっても決着しない場合(2/3以上の有効投票がない場合)、一度休息を経て(この「休息」は教会的な意味だが、実質的には数日空ける、程度の意味)、その後の数回の投票でもさらに決まらない場合にはじめて決戦投票が用いられる制度となっています(現在の教会法(カノン法)。日本でも行われうるため日本の教会のサイトにはたいていこのことは掲載されています)。

 日本では、明治維新のときにフランス・ドイツの考え方を取り入れた帝国憲法時代の初代民法(旧民法)が定まりましたが、江戸時代に弾圧されていた経緯もあり、カノン法という考え方が積極的に取り入れられることはなく、第二次世界大戦後は政教分離の原則も定まったため、日本には「表立って」教会法(カノン法)という概念は存在しません。ただし、日本においても教会内部で「のみ」有効な法(「法」というより、マナーといったほうが良いか)は日本版カノン法として定まっており、教会内部でのもめごとは、日本では「単なるマナー違反にとどまる限り」、教会内部の「管区裁判所」(東京、大阪、長崎)に設置されているところで審議されます(日本においては、日本国憲法上の「裁判所」との区別のため、和解制度のような動きになっている)(この管区裁判所の制度もカノン法によるもの)。ただし、それに不服があるものは必ず「通常の」地方裁判所等に接続ができる仕組みになっています。これは日本国憲法との兼ね合いです。

 ※ このあたり、なぜかよく書けるのは、日本では「信教の自由」と「裁判制度」の兼ね合いで憲法判例の学習上出てくるところであるためです(なので、法律系資格持ちは信者ではなくてもある程度このあたりの制度は知っている)。

yukispica
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