「「大奥」見ている感覚」教皇選挙 かばこさんの映画レビュー(感想・評価)
「大奥」見ている感覚
私はクリスチャンではないので特にキリスト教に思うところがなく、「大奥」における権力争い、のような感覚で見ていた。
高貴で格調高く、上品な言葉遣い物腰振る舞いから本性をチラ見えさせながらのえげつない足の引っ張り合いにはぞくぞくするものがあるし、コンクラーベ会場のシスティーナ礼拝堂の内外、枢機卿たちの装いなど壮大で荘厳かつ色鮮やかで華やか、(おそらく)伝統にのっとった数々の「儀式」は様式美に溢れ、眼福です。それだけでもずっと見ていられる。
話自体はミステリーながら割とシンプルでさほどのひねりもなく(だからラストの衝撃が強調されるよう)、人物も分かりやすく整理されているのでストーリーが楽に追える。
教皇が突然亡くなり、次の教皇を決めるコンクラーベを仕切ることになったローレンス主席枢機卿が探偵役となり、教皇有力候補者の陰謀を次々に暴いて脱落させて、最後に残るのは誰か、なミステリーに並行して、旧弊で世俗に塗れたローマカトリック内部の実態を今更だが暴露していく。中年以上のおじさん、おじいさんだけが集まる異様な世界であることも分かる。尼僧は選挙に加わることは許されず、ただおじさんたちの世話をするのみだ。
ベニテス枢機卿が飛び入りしてくるところで、彼が次の教皇になるのではと予想しつつ、テロで爆破された窓ガラスから入ってきた風に内部のみんなが気づくところで、淀んだ世界に風穴を開ける存在の比喩に違いないと、それを確信した。体調が云々、海外の病院で云々、と言われていたので、もしかすると女性になりたかったのを断念した人なのかと思ったらそうくるか。
亡き教皇が次期教皇の有力な候補になりうる枢機卿たちを誰一人信用しておらず、信頼する尼僧アグネスの協力の元彼らの身辺を調べていたことが明らかになり、教皇の深慮遠謀が見えて来る。
コンクラーベをローレンスに仕切らせたのは、彼に野心がないのが分かったからだろう。辞任を願いに来る人は次期教皇になりたいとは思っていないはずだから。その彼ですら、自分にも目があるとわかればその気になって教皇名を考えたりする。それほど魅力的な座なのだ。
教皇はその死後に、満を持してベニテスを送り込んできた。
過激で知られる異教徒の中で自身の信仰を貫き、危険も顧みず戦乱の中、奉仕活動に身をささげてきたこの人には、集まった枢機卿たちが己の薄っぺらさに恥じ入らざるを得ない、本質的で、思索を巡らせ深化を進めてきたであろう宗教観がある。それはトランブレ失脚時の控えめながらも確固たる態度で示した言葉で明白となり、当然の流れでベニテスが次期教皇に選出される。(これが韓国映画だったら、だから何、で一番汚い奴が選ばれそう)ここまではほぼ、予想通り。
そこで終わるのかと思いきや、ここからが驚愕の展開。
教皇はベニテスが両性具有者であるということも知っていたが、女性の証を体から排除すれば参戦可能と考えていた。
しかし、ベニテスは、教皇の想定を超えてくる。
教皇の言葉に反し、「神から与えられた体を変えない」という選択を下したベニテスは、すでに教皇さえも超越した存在になっていないか。
世界最古の家父長社会と言われるバチカンにおいて、決選投票以前にベニテスが両性具有のままであることが知れたら教皇に選ばれることはなかっただろうが、ベニテスは聖職者として最も適任と認められたが故に選ばれた。それは女性でも男性でも両性具有でも、変わるものではない。結果的に最も旧弊と思われるローマカトリックが、多様性を一足飛びに、最も進歩的に認めたということになった。前代未聞の大改革になったのだ。このオチが大変鮮やかで予想がつかず、やられた。
最近の映画は多様性が多用され過ぎではないかと思っていたが、この映画に関しては必然性が桁違いだ。また、今だから作られた映画だと思う。
脚本が素晴らしく、アカデミー賞脚色賞は納得。
この映画はカトリック信者にはどのように映るのだろう、大きく物議を醸すことにならないんだろうか、上映禁止になったり、映画関係者が脅されたり脅迫されたりはないのか。
レイフ・ファインズ、スタンリー・トゥッチ、ジョン・リスゴー、とほぼおじいさんのおじさん俳優ががっつりぶつかり合い、その隙間を縫って、カルロス・ディエスがするすると持っていく。
いやもう、おじさん俳優たちの、その年齢でないと出せない加齢臭がむんむん臭ってきそうな(誉めてます)演技も眼福でした。
イザベラ・ロッセリーニは良い役だけどさほどのインパクトはなく、オスカーノミネートはサービスでは、と思ってしまった。
前教皇がかわいがっていた亀は、ベニテスのメタファーでしょうか
コンクラーベ終えて、礼拝堂からわらわら出てくる尼僧たちの未来も、開けてきそうなラストでした。
>自身の信仰を貫き、危険も顧みず戦乱の中、奉仕活動に身をささげてきたこの人には、集まった枢機卿たちが己の薄っぺらさに恥じ入らざるを得ない、本質的で、思索を巡らせ深化を進めてきたであろう宗教観がある。それはトランブレ失脚時の控えめながらも確固たる態度で示した言葉で明白となり、当然の流れでベニテスが次期教皇に選出される。
>教皇はベニテスが両性具有者であるということも知っていたが、女性の証を体から排除すれば参戦可能と考えていた。
しかし、ベニテスは、教皇の想定を超えてくる。
教皇の言葉に反し、「神から与えられた体を変えない」という選択を下したベニテスは、すでに教皇さえも超越した存在になっていないか。
>ベニテスは聖職者として最も適任と認められたが故に選ばれた。それは女性でも男性でも両性具有でも、変わるものではない。結果的に最も旧弊と思われるローマカトリックが、多様性を一足飛びに、最も進歩的に認めたということになった。前代未聞の大改革になったのだ。このオチが大変鮮やかで予想がつかず、やられた。
かばこさんの、射貫く表現、掬い取る力にいつもながら感動です。保存しました!
こんばんは^ ^
良いねにコメも有難う御座います。
この映画の後に本物のコンクラーベでしたね。タイムリー過ぎて驚きましたが新しい教皇選出もじつは…と妄想しちゃってました(o^^o)
こんばんは!
ストレートな性格なので忖度しないですよ私は!
漫画家アニメ?ってランキング1位の君たちはどう生きるか?ですかね?それだったら私も低評価してますよ!
共感とコメントありがとうございます。
レビューがとても的を射ていて、素晴らしいと思いました。
ベニテスは、私も「トランスジェンダーで女性になろうとしたが、止めた?」と勝手な推測をしていましたが、見事に外されました。
色々な考えがあるとは思いますが、個人的には「宗教は、弱い人間が自分たちの心のより所のために創ったもの」と考えているので、俗からしか生まれ得ないと思っています。
「おじさん大奥」だったけどなぜか嫌でなかったのは、衣装、傘、指輪など全てが統一されていて皆等しく神の僕に見えたから。それも何千年もの中で作り上げられてきた外見アピールの賜物だと思った。
コメントありがとうございます!
テデスコとかテデスキっていう姓はイタリアに普通にあるようですけど、もしかしてわざと?と思っただけです
息子さんも映画が好きだなんて、一緒に趣味を楽しめて羨ましいです。若い人の映画離れ、洋画離れが気になっていたので、映画祭までお出かけになるなんて素晴らしいことです。やっぱり本物のクリエイターや役者さんを間近に見たら、めちゃくちゃ作品への思い入れが深まることでしょう。
ジロリアンってことは三田キャンかな?
息子さん、イタリア語は普通にできるから、さらに中国語を学んでいらっしゃるなんて、めちゃくちゃ優秀ですね!カナダでも、フランス語より中国語の方が実用的ですw
イタリアは超おすすめで、行ったら絶対気に入りますよ。私もまた行きたいな。
共感ありがとうございます。
今作の大オチは意外と、審査員に衝撃だったのかもしれませんね。女性?が教皇に!途中、神は目と耳を・・の台詞を言ったロッセリーニが女性代表みたいに思えたとか。
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