「住むべき世界に境界線ができた時、親は愛よりも生存を優先させなければならない」動物界 Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
住むべき世界に境界線ができた時、親は愛よりも生存を優先させなければならない
2024.11.11 字幕 MOVIX京都
2023年のフランス&ベルギー合作の映画(128分、PG12)
獣人化する奇病が蔓延するフランスを描いたパニックスリラー
監督はトマ・カイエ
脚本はトマ・カイエ&ポリーヌ・ミュニエ
原題は『Le régne animal』、英題は『The Animal Kingdom』でともに「動物の王国」という意味
物語は、フランスの北部のどこかの街にて、渋滞にハマっているフランソワ(ロマン・デュリス)と、その息子エミール(ポール・キルシェ)が描かれてはじまる
二人は病院に行く用事があり、そこで妻ラナ(フローレンス・デレッツ)の主治医ヴァレリー先生(ナタリー・リシャール)と会う予定だった
ラナは今世間を騒がせている奇病に罹っていて、それは体が徐々に獣の姿になると言うものだった
渋滞に痺れを切らしたフランソワはエミールに強くあたり、それが原因で彼は車を降りてどこかへ行ってしまう
フランソワは力づくでエミールを止めるものの、その矢先に、救急車の中から鳥に変化しつつある男(のちにフィクスと判明、演:トム・メルシエ)が飛び出して、あたりは騒然となった
その後、病院に着いた二人は、ヴァレリーから南仏に新しい施設ができて、ラナをそこに移して治療を続けると告げられる
二人はラナを追うように南仏の街に一時的に仮住まいを見つけ、2ヶ月間限定で、そこで過ごすことになったのである
映画は、獣人化していく人々を描き、それを世間では「クリーチャー」などと呼んで距離を置く様子が描かれていく
そんな中でも、近親者が獣人化した人は変わらぬ愛を保っていると言うテイストになっていて、フランソワは妻のみならず、息子も獣人化していくと言う試練に打ちひしがれることになる
エミールの変化も少しずつで、周りに悟られないように生きていくものの、クラスメイトのニナ(ビリー・ブラン)はそれに気づいているし、憲兵のジュリア(アデル・エグザルコプロス)も彼らの変化に敏感になっている
だが、施設における治療には効果がないこととか、ただの実験に使われているのではと言う疑念が拭えないまま、フランソワは獣人化しつつあるエミールをどうすべきかを迫られていく
そして、彼が取った行動とは何か、と言うのが映画の命題となっていた
元々医者の言うことを信用していないフランソワは、妻の病変を止められない医学に見切りをつけていて、事故によって行方不明になった獣人たちの捜索も早々に打ち切られている現実を知る
憲兵隊レベルでは何もできず、軍隊が投入されている背景から、フランソワは国がこの事態に何を考えているのかを悪読みしていく
それらの積み重ねが彼の決断となっていて、それを見過ごすジュリアも国の決定には異を唱える立場にあるのだと思う
獣人化する前の人を知っているほど差別意識が生まれず、それから遠いほどにそれが強まる傾向があるのだが、これはある種の人間の性のように描かれている
当事者意識を持てる範囲はかなり狭く、そこから数センチはみ出しただけで異端として弾く傾向がある
そういったものへのアンチテーゼとして、物語は機能しているように思えた
いずれにせよ、クリーチャー化する造形美とか、映画の雰囲気を楽しめればOKと言う内容で、描かれている普遍的な愛の物語はそこまで特筆すべきものではないと思う
この映画では、得体の知れぬものへの恐怖と差別意識が生まれる境界線を描いていて、目に見えることがそれを増長していく様子を描いていく
フランソワの決断はおそらくは正しいのだが、今後国がどのような行動に出るかは読めない
それを踏まえた上で「生きろ」と言っているのだが、それは親が子を社会に放つ意味とはまるで違うようにも思えた
実際にこのような別離というものは訪れないと思うが、帰る場所を提供できない親ほど、揺るがぬ決意と愛を示せるのかな、と感じた