「なかなかの良作」動物界 luna33さんの映画レビュー(感想・評価)
なかなかの良作
他にも観たい映画があったにも関わらず「動物界」という何とも奇妙で怪しげなタイトルがどうにも気になり、とりあえず予告編を観てみたところ興味がさらに爆上がり。結果まんまと釣られてしまった。まあ正直なところ好みが割れる作品だとは思う。見方によってはホラーともヒューマンドラマとも言い切れない内容だし結論もよく分からない。もっと言えば何が言いたいのか何を示したかったのかすら不明瞭だ。その中途半端さをどう受け止めるかで評価が大きく変わるんじゃないかと思うが、どの方向にも振り切っていない中途半端さが味わい深く感じられた僕にとっては「アリ」となった。
いつ変異が始まったのか?なぜ変異するのか?他の地域はどうなのか?他の国はどうなのか?そもそも変異って何なのか?といった話は一切出てこない。何の説明もなく解明もされず、ただ奇妙な状況が続くだけで客観的な視点などまるでないため全体像が全く把握出来ないわけだ。おそらくそれが気に入らないと言う人も居るんじゃないかと思う。ただ僕にとってはそれが良いのだ。世の中のどんな事にも言える事だと思うんだが「渦中の人」は大抵周りが見えてないものなのだ。つまり状況の分からなさこそが実は強烈なリアリティになり得るわけで、主人公と同じ目線になる事で物語に完全に没入する事が出来る(ただしその為の描き方は本当に大切)。
エミールが徐々に人間性を失っていき動物的になっていく様も不思議なリアリティを感じた。フィクスとの友情(?)も良かったし、母親との再会も良かった。限りなく動物的で完全には理解出来ないのがまた良いのだ。そして父フランソワが全くブレてないのが素晴らしい。もちろん大切な家族だからというのもあるが、何よりフランソワが「誇り」を持って生きているのが伝わってくる。たとえ家族が動物に変異したとしても彼の決意は何も揺るがない。だから最後の「生きろ!」の言葉に思わずグッと来てしまうのだ。あれはとても良いラストだったなと思う。動物に変異してしまうという奇妙で大袈裟な設定ながら、結局は一家3人の物語という小さなスケールのまま最後まで走り切ったのも結果的に良かったのではないだろうか。
この作品をもってフランス映画全体を語るのもナンセンスなのは承知の上で言うが、何とも言えない「苦味」が残る味付けとか、気持ち悪いのにアートに見えてしまう絵面とか、喜怒哀楽を一つに特定し切れない情感とか、色んな要素が複雑に絡み合って映画が終わった時にひと言では言い表せない感情になる所がちゃんとフランス映画だな~と思ってしまうのである。僕がおそらく初めて観たフランス映画は「ディーバ」だったと記憶している。これも実に不思議な映画であったが、とにかくめちゃくちゃ面白くて信じられないほど美しかった。やっぱりフランス映画ってちゃんとフランスの味がするんだよな~と思わずにはいられない。
タイトルでホラー?と思いましたが父と子のやりとり、様々な社会変化、偏見、事件と描き方が日本やアメリカと違い独特だなと。ラストのカタルシス炸裂には泣かされました。
エミールを逃がしたことが悲劇を生むかもしれない。
それでもフランソワは世界ではなく息子を選んだんですよね。
どちらを取るにせよそこに意思が通っていることが肝要で、この作品にはそれがあった。
仰る通り、フランソワがブレなかったことが後味の良さに繋がったと思います。
luna33さん
コメントありがとうございます。
感想が似ていて共感できます。
改めてスプライスの評価みたら
めちゃくちゃ低いですね 笑
映像もCGもデザインも
しっかり出来ていて、安っぽさはないですが、みなさん胸糞悪さで
評価低くしてるみたいですね。
コメントありがとうございます。
エンタテインメントを標榜しながら、芸術も盛り込もうという欲張りな監督が多いですね、欧州は。三大映画祭を擁する文化圏という環境のせいでしょう。