「溢れ出る情熱と愛」ジョン・ガリアーノ 世界一愚かな天才デザイナー hanakoさんの映画レビュー(感想・評価)
溢れ出る情熱と愛
ファッション界の寵児、天才、革命児、、、彼を称賛する言葉は数知れず。あのディオールにロックとパンクの風を持ち込み、エレガントさと融合させ、ディオールを復活させた男、ガリアーノ。
あの狂乱の時代からレイシスト発言事件、そして追放から現在までを自身の言葉と周囲の言葉で語り尽くしたドキュメンタリー。
パンクでゴージャスで斬新で猥雑でエレガントでゴシックなあの頃の作品は、今見ても美しい。
それなのに依存症になる程酒を飲み、自ら破滅に向かって行ってしまうほど、激務の中に放り込むメゾンもまた、商業主義的過ぎやしなかっただろうか。
彼を一番に評価したのもメゾンなら、彼が問題を起こした時、真っ先に彼を切り捨てたのもメゾン。
キャンセルカルチャーの中、彼なりにもがいてきたのだろう。
過去のことを語る目は穏やかで、分からないことは分からないと言い、正直に過去を語ろうとしている姿は、あのとんがっていたガリアーノからは想像もつかない姿だ。
しかし彼は、ファッション以外に対して無知すぎた。その無知から問題を起こしている事に気付かない天才に涙が出る。
やはり、ファッションという文化を背負おうとする者ならば、文化的、宗教的背景も学ぶべきなのだ。
それでもやっぱり、彼をレイシストとして片付けられないのは、彼の生み出す作品が昔も今も美しいから。
ラストシーンであの頃の作品を手にした時の顔の輝き、素材を語る表情、丁寧に話すカッティングやラインの意匠…。その一つ一つからファッションへの情熱と愛が溢れ出るのを感じた。
ドキュメンタリーとしても見やすく、丁寧に作られたのではないだろうか。
個人的にはガリアーノにはキャンセルカルチャーから復活し、今度こそは本当の天才としてそこにいてほしい。