「大変面白く観ました!!!」ブルーピリオド komagire23さんの映画レビュー(感想・評価)
大変面白く観ました!!!
(完全ネタバレですので必ず鑑賞後にお読み下さい!)
結論から言うと、大変面白く観ました!!!
今作の映画『ブルーピリオド』は、雑にまとめれば高校生が東京藝術大学の美術学部の絵画科の現役合格を目指す物語です。
主人公・矢口八虎(眞栄田郷敦さん)は油画専攻(いわゆる油絵の専攻)を目指します。
個人的にもデッサンをしていたことがあったのでニュアンスは多少分かるのですが、映画の中でも描かれていたように東京藝術大学の美術学部に合格するのは並大抵の話ではありません。
例えば、東京藝術大学よりもレベルが落ちる多摩美術大学や武蔵野美術大学でも相当にレベルが高く、その2校よりレベルが落ちると思われる東京造形大学であっても相当のレベルの高さがあると思われます。
なので東京藝術大学の美術学部に合格するなど奇跡中の奇跡と考えられ、5浪6浪なんて当たり前の世界だと思われて来ました。
そこで現役合格するなどさすがに困難中の困難で、まして主人公・矢口八虎が東京藝術大学を目指すのは高校2年生になってからなので、そこから現役合格するなんで全くあり得ない、というのが一般的な理解だと思われます。
ところでこの映画『ブルーピリオド』の大きな高揚感ある場面の一つに、主人公・矢口八虎が高校の先輩の森まる(桜田ひよりさん)の描く「天使の絵」と出会って、「あなたが青く見えるなら、りんごもうさぎも青くていいんだよ」との彼女の言葉から、青い渋谷の絵を描く場面があります。
この場面の1観客としての高揚感は、感銘を起こさせる素晴らしい一連のシーンになっていたと思われました。
ところが、ここからこの映画はずっと鬱展開が続くのです。
なので映画としては突き抜けた面白さが、矢口八虎が青い渋谷の絵を描いた場面以降はそこまであったわけではありません。
なぜなら主人公・矢口八虎は(高橋世田介(板垣李光人さん)のような)天才ではなく、絵の上達は薄紙を重ねていくようにジリジリとしか進んで行かないからです。
なので映画としては突き抜けた面白さを描くことが困難なまま、しかしながら東京藝術大学の美術学部を目指すという誠実な描写に関しては、そのリアリティを獲得していたと思われました。
ただこの鬱展開やジリジリとした努力の歩みだけでは、当たり前ですが東京藝術大学の美術学部に現役合格するなど時間的にも不可能です。
この映画『ブルーピリオド』の面白さは、その誠実なジリジリとした努力のリアリティ描写と共に、主人公・矢口八虎の「戦略」が描かれるところです。
そしてこの「戦略」は、上滑りの考えだけでは東京藝術大学 美術学部に現役合格するという現実には全く太刀打ちは不可能で、その「戦略」は物事の<本質>に深く到達している必要がありました。
一見すると(美術受験に興味のない人からすれば)たかが大学受験の話に過ぎないと思われる内容でもある今作が、広く多くの人に面白い作品だと思える1つの要素として、この<本質>に深く到達する「戦略」の描写があったと思われました。
この<本質>に到達する「戦略」に関しては、他の分野にも広く通じている普遍性ある内容になっていると感じました。
この後、主人公・矢口八虎は(一般的には高2からの挑戦では到底あり得ない)東京藝術大学 美術学部 絵画科 油画専攻に現役合格します。
しかしながら、主人公・矢口八虎による、ジリジリとした努力の誠実な描写と、<本質>に到達する「戦略」によって、今作はこの現役合格にリアリティある説得力を観客にもたらせていると思われました。
また、ユカちゃん(鮎川龍二)(高橋文哉さん)に関わる話や矢口八虎との関係性も良かったと思われます。
もちろん題材内容的に突き抜けた面白さにするには無理があり難しく今回の点数となりましたが、一方で個人的には素晴らしくも誠実でリアリティと他への普遍性の深さある作品になっていると思われました。
誠実で素晴らしい作品をありがとうございました。