「人生をぼんやり生きている人に向けて何か見つけて取り組みたくなるような、背中を押してくれる作品でした。」ブルーピリオド 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
人生をぼんやり生きている人に向けて何か見つけて取り組みたくなるような、背中を押してくれる作品でした。
「マンガ大賞2020」を受賞した山口つばさによる人気漫画を実写映画化し、空虚な毎日を送っていた男子高校生が1枚の絵をきっかけに美術の世界に全てを賭けて挑む姿を描いた青春ドラマ。好きなことに真剣に向き合う主人公の挑戦に、胸が熱くなることでしょう。
●ストーリー
高校生の矢口八虎(貝栄田郷敦)は、友人たちと徹夜で酒を飲みながら騒ぎ、タバコも嗜む遊び人である一方で、成績はトップクラスという器量の良い優等生でもありました。金髪で軟骨にピアスも空けている不良ながら、クラスの陰キャラとも分け隔てなく接する愛嬌のある人気者です。
反面何をやっても達成感を得られず、空虚な毎日を過ごしていたのです。大学受験と関係のない選択授業はサボるために美術を選択していました。苦手な美術の授業で「私の好きな風景」という課題を出された彼は、悩んだ末に、徹夜で遊んだ朝の渋谷で見て感動した「明け方の青い渋谷」を描いてみます。絵を描いてみて初めて本当の自分をさらけ出せたような気がした八虎は、美術に興味を抱くようになります。そしてある日美術室で見た一枚の絵に惹かれ、美術部に入部。次第に絵を描くことにのめり込んでいき、真剣に国内最難関の東京芸術大学の受験を目指し始めるのでした。
●美大受験解説
八虎が受験に挑もうとする東京藝術大学の絵画科は、日本一受験倍率が高い学科と言われている。現役生の倍率は約200倍で、受かるのは毎年5人ほどで、三浪、四浪は当たり前。十浪して目指す人もいるといいます。劇中では「ある意味、東京大学よりも受かるのが難しい大学と言えるかもしれない」と表現されるほどの超難関なのです。家の経済状況を考えると、私立大受験は厳しい八虎…。志望校を藝大に絞って、七転八倒のチャレンジが始まるのです。
●解説
人気漫画の実写映画化。受験の620日前から日付を刻み始め、八虎がゼロから油絵の技術と、対象を捉える感覚を磨いていくさまを刻々と追っていく。美術部の先輩と出会い、美大予備校でライバルと切磋琢磨し、絵画の奥深さと魅力にのめり込んで課題を乗り越えていく展開です。その熱意をテンポ良く見せるし、八虎の絵の良さも分かりやすく示して画面は弾むのです。
しかし、2時間で約2年を詰め込んだだけに枝葉はばっさり。憧れの先輩も予備校のライバルも、書き割りのように存在感が希薄。また親から女装を否定されて、一度は死のうとまでした八虎と同級生のユカちゃん(高橋文哉)のその後もはっきり描かれていません。これでは原作ファンには不満かもしれませんね。
そもそも「絵を描きたい」という目標は、東京芸大に行かないと実現できないのか?と疑問もチラリ。(私立の芸大は授業料が高額というのも分かりますが。)芸術とは、才能とはと真理を問うより、東京芸大という目標に向かって一直線の、ノウハウもの風なのが現代的。努力と汗の「スポ根」乗りで楽しめることでしょう。
●感想
好きなことなら、どんな苦労も厭わないという八虎の姿勢には、感じ入りました。演じている貝栄田郷敦も、絵を描いているときは目がキラキラと輝き、八虎の情熱や直向きさを感じさせてくれました。自身のイメチェンにもなる挑戦的な演技だったと思います。
また女装のユカちゃんを演じた高橋文哉は、ホントに可愛い女の子に成りきったいたのです。自殺しようと海に飛び込んで、八虎に助けられたあとふたりで民宿に泊まるシーンでは、なんと二人とも裸になって、お互いの自画像を描くシーンがありました。その時のユカちゃんには、男を超えた色気を感じさせてくれたのです。
とにかく登場時の八虎同様に、具体的目標が見つからず、人生をぼんやり生きている人に向けて何か見つけて取り組みたくなるような、背中を押してくれる作品でした。