「技術や戦略に先立つパッションの熱さ」ブルーピリオド あんちゃんさんの映画レビュー(感想・評価)
技術や戦略に先立つパッションの熱さ
「ブルーピリオド」は通常、絵画史ではピカソの青の時代を指す。そして、主人公に強くエモーションを与える渋谷の夜明けの蒼さはいわゆるブルーアワー。どちらも日本人の大好きなセンチメンタルなモチーフである。
このあたりをじっとりネチネチ描くのかと思いきや、映画では割とアッサリと通り過ぎる。まずはそこに好感を持った。
主題は東京藝術大学合格を目指す八虎の熱い日々。ストレートに描かれる。
感心するのは映画内に登場する絵画作品のリアルさ。八虎を導く森まるの作品がまずもって色彩の美しさからしてストーリーに説得力を与える。昨年の某映画の「黒い絵」が噴飯ものの出来で映画をぶち壊したのとは大違い。ただしすべての絵画作品が良いわけではなく、駄目な作品は駄目で、きちんと描き分けられている。
八虎の人物像がユニークなのは彼が優等生であるところ。努力と戦略立案能力で何をやらせてもそれなりに成果をあげることができる。でもそれだけでは東京藝術大学には合格できない。パッションが必要なのである。そのことをキチンと説明するためにはライバルの世田介との対比、そしてユカの視点が必要なのだろうが、映画ではややその部分が弱かった。特に天才である設定の世田介の作品があまり出てこないことがちょっと気になった。
最後に一つ、八虎が最初の美術の課題で描いた渋谷のブルーアワーの水彩画。キチンと可視化されてきれいな色合いの絵ではあるが、あれを一発で渋谷の夜明けと見切ったDQNの彼のセンスは凄いね。後でパティシェの道に進むようだけどさぞかし腕利きになるのでしょうね。