「ゴールから逆算したようなシナリオで、それが物語の熱を奪っているように思えた」ブルーピリオド Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
ゴールから逆算したようなシナリオで、それが物語の熱を奪っているように思えた
2024.8.9 イオンシネマ久御山
2024年の日本映画(115分、G)
原作は山口つばさの同名漫画(講談社)
ある絵をきっかけに美大を目指そうとする高校生を描いた青春映画
監督は萩原健太郎
脚本は吉田玲子
物語の舞台は、東京の新宿
友人たちとスポーツバーに行っては朝帰りを繰り返していた高校2年生の八虎(眞栄田郷敦)は、成績が良いにも関わらず、日々を空虚に感じていた
彼は、夜明け前の新宿の静寂が好きで、ブルーに染まった空を見ながら、その時だけは心の中が満たされるような気がしていた
ある日、美術の時間にて課題を出された八虎は、放課後の美術室にて、誰かが描いた絵に魅了されてしまう
その場に現れた中学からの同級生で美術部のユカちゃん(高橋文哉)は、森先輩(桜田ひより)が描いたものだと言う
八虎は、将来性がないのに美術に傾倒していることを疑問視して悪態を吐くが、美術部の顧問・佐伯先生(薬師丸ひろ子)から、「あなたにとって価値のあるものは何かを知りたい」と問いかけられてしまう
その後、美術の課題を書くために教室に来た八虎は、そこで森先輩と出会い、彼女の絵に対する想いを聞かされた
その後、一緒に絵を描きながら、八虎は新宿の青い空をどうしたら表現できるかと考え始める
そして描いた絵は、親友やクラスメイトから評価され、八虎の中で絵を描きたいと言う強い思いが生まれるのである
映画は、約1年半の東京藝大へのチャレンジの過程を描き、美術専門学校に通って、知識と実力を磨いていく様子が描かれていく
専門学校の講師・大葉(江口のりこ)は的確なアドバイスを与え、ユカちゃんやその他のライバルたちとともに難関と言われる東京藝大の試験へと向かう
だが、確たる芯がないまま突き進む八虎は、母親(石田ひかり)の反対で挫けそうになってしまう
そんな折、親友の晋(兵頭巧海)から「八虎の夢に感化された」と聞かされ、好きなことで生きていくことの尊さを思い出していくのである
120分で1年半と言う無茶なスケジュールで、しかも絵を始めるまでに25%ぐらいかかっているので、後半のダイジェスト感は否めない
八虎の合格がどのように実現したかを見る内容だが、あの絵で東京藝大を一発で受かるのかは何とも言えない
才能がないから努力と戦略で突き進むのだが、東京藝大攻略系の講師が出てくると言うこともなく、ほぼ独学で戦略を練って戦っていく様子が描かれていく
こういう人を天才と呼ぶのだが、八虎自身は自分が凡人だと思っていて、本質を見極めるだけであっさりと絵が描けてしまうチートな人をライバル視したりもする
かなりファンタジックな感じになっていて、漫画とかアニメだと良い塩梅だと思うが、こと実写になるとリアリティを全く感じなくなるのは不思議だなあと思った
おそらくは、原作にあるシーンをピックアップして、それに繋がるエピソード&キャラを出すと言うことに特化してシナリオを作っているのだろう
それゆえにワンシーンだけ登場するキャラがいたりとか、前後のつながりを意識していない流れになっていたように思えた
例えば、ユカちゃんが階上の男子生徒に手を振るシーンと、街角で男性にフラれるシーンがあるが、これは別人(階上の生徒が坂本(志村魁)で、路上の男は佐々木(濱尾ノリタカ))だったりする
全体の流れを考えると、ユカちゃんが坂本に告ってフラれたみたいな流れに見えるが、実は「女と間違えられて声をかけられて、男だとわかって拒絶された」と言うシーンだった
これを原作未読で理解しろと言う方が無理な話で、そもそもユカちゃんが八虎を振り回すキャラとして描かれているのも、東京藝大の試験に裸体が出てくるからだった
そのハードルを突破するために、海に行くと言うシークエンスが必要で、そのためにユカちゃんがフラれる(実際には親に女装道具を捨てられる)ところに八虎が居合わせないとダメ、みたいな逆展開をしているのではないだろうか
取捨選択を考えるなら、親に反対されると言うシークエンスが八虎にもユカちゃんにもあるので、あえて「ユカちゃんがフラれるシークエンス」を挿入する意味はなく、父親がブチ切れて殴られるシーンを挿入するだけで事足りるように思えた
いずれにせよ、このようなゴールから逆算して必要な要素だけをピッキングすると言うのが目立っていて、八虎の前にハードルが現れると、次の場面でそれを打ち砕くためのヒントが現れる
この繰り返しの末に合格に至っているので、戦略と努力というよりは、持って生まれた人の縁が彼を合格させたように見える
最終的には、その出来事で彼が本質に気づく才能があるからとも言えるのだが、それは彼の感性に依るもので、そういったものを戦略とか努力とは言わないと思う
そのあたりの造り込みに違和感を感じるので、あまりのめり込めなかったというのが率直な感想である