「頼むから連絡してください」アディクトを待ちながら 寝落ち中尉さんの映画レビュー(感想・評価)
頼むから連絡してください
依存症からの回復を目指す方々の姿や実態の断片を、一般の方にもある程度の範囲で伝わりやすく映画化した。
という事実に対して高評可をつけさせていただきます。
依存症もそうですが、世間には認知が低かったり誤解の多い病状や状態についての作品がもっと増えてほしいですね現状では。
わたし自身は吾妻ひでおさんの失踪日記を含め、(多分)当事者ではないもののある程度の知識はありましたので特段に驚くような要素はありませんでした。依存症等、精神や心に絡む病に対しての世間の認知度の低さは日本はまだまだだなと常々感じております。ナイチンゲールの看護覚え書き「おせっかいな励ましと忠告」を読んでほしい。あとこの映画のパンフにもコメントを寄せている三森みささんの依存症やトラウマ回復の漫画もおすすめです。
よく人は、「心の弱さ」あるいは強さについて軽率に言葉にして決め付ける事があるようですが、実態としての人の心に強い弱いは無いと思います。それは他者や当事者の評価にしか過ぎません。誰にでも弱く見える一面もあれば、強く見える一面もあり、多様で複雑なはずです。 少なくとも要素を限定せずに雑に一個人に対して心が強い人だとか弱い人だとか、判断したりレッテル付けする必要自体がそもそも無いと私は考えます。
一度の失敗や犯罪で全人格を否定するのはよろしくないというのは当然です。この作品も完璧ではありませんし一映画作品としての完成度はそれほど高くは無いですが、表現しようとする意志とそれを具体化し続ける能動性や志向性こそが大事だと思います。生きようという意志についても同様。
自身を好きになる。肯定することが大切だ、というのは全くその通りだとおもいます。罪は罪として償いもまた必要なのは人間社会で生きる上ではもちろんだという前提で、ですけども。※もちろん冤罪でなければ・・・少し前に飯塚事件についてのドキュメンタリ『正義の行方』を観たばかりなもので
終盤のアドリブシーンらしきパートで言われていた、自己嫌悪のドツボに嵌り余計に悪化するというのは、依存症では無い私にも非常によくわかります。基本的には刑法上の手続きを踏まえたなら世間的には積極的にサポートし受け容れて然るべきだとは思いますが、多勢が弱い者いじめから抜け出せなかったり頑なに安全地帯に固執しているようでは難しいですよね。犯罪を犯した人というのはある種の病人と同様な側面があり、それをどのように治療したり対処を一緒に考えたりするかが肝要であって、罰を与える事そのものに意義を見出すのは倒錯しています。ある種の思考停止ですよね。そのあたりについては『プリズンサークル』や新書の「ケーキの切れない非行少年たち」などを是非おすすめします。
まず知識や他の物語を得ることは大事で、誰にとっても決して100%他人事では無いという事を実感したほうがいい。うつ病でもそうだし、がんや重度の糖尿病もそうだし、発達障害グレーゾーンもそうだし、降ってわいたような貧困困窮もそうだし、数多くある難病でもそう。
だれでも産まれたてから当面は他人に迷惑をかけまくり世話になるし、老いればまたそうなるし、その間であっても病気であればまた同様なので。
どう受け止めればよいのか、自分自身で試行錯誤し続けるしかなく単純な正答なんて多分無いんですよね。いずれ医学的にある程度のフィジカルへの関与はできるようにはなるのかもしれませんが。TMS等の保険適用もまだまだですしね日本は。
以下、一般の普通の映画として観た感想です。
全般的に舞台演劇的に作られているせいか、やけに台詞頼りな点は気に掛かりました。作中であと30分・・・と言いながら明らか登場人物が時間そっちのけに30分以上悶着してるよね?とか、終盤も難なくフイッと現れたとおもったら普通に考えて今ここでそういう紹介や引き合わせをするか!?事後でいいじゃんお客さんを雨の中更に待たせてるんだからさ、というような展開だったり
そういう具体的な時間経過について重視しない点は如何にも演劇的だな~と思いながら観てしまいました。
また、本音っぽい台詞を出した直後に「な~んてね!」ってひっくり返すシーンが2,3回ほど別の人物がやっているのが気に掛かりました。ああいうのって私、虐待に相当すると思ってるんですよね、その内容にもよりますけど。からかう・虐待の2ワードで検索してみてください。1作品で1人のキャラクターが「そういうキャラですよ」というのならともかく、1作品内で複数回にわたってやられると う~~ん・・・ってなってしまいます。
同様に告白しようとしている仲間を、当事者おいてけぼりでやたらと囃し立てるあの振舞は好きになれません。
終盤でわたしもわたしもと謝罪担当についての名乗り出が続出しましたけど、複数人でぞろぞろ謝りに出ても責任の所在をボヤかされているように謝られているほうは感じかねませんし、なにより威圧的になりがちなので、どうかな~?と思ってしまいました。揃って謝るシーン自体は描写はされていませんでしたけども。
群像劇的に複数のパターンを盛り込んでいる為、1人1人についての状態や経緯についての掘り下げがとても浅いのは残念でした。また別の作品に期待したいと思います。
実際の依存症患者の方への配慮もあるのだと思われますが、本当に依存状態に苦しんでいる状況描写についてはあまり無かったので、その点については少し肩すかしでした。あっても軽く触りくらいでしたね、お母さんの買い物依存とか。
マスコミ人については、理解のないゴシップ系と理解のあるちゃんとした側との両方を配置したのは良いと思いました。
タクシーの中でのびみょーなやりとりとか、待ち列の悶着中に決めつけが加速するところとか、実際にありそうな感じもよかったです。
いずれにせよ、
遅れるなら早めに連絡いれましょうね。
これに尽きる。
そしたら話が盛り上がらない?
ではなぜ連絡を入れられない状況だったのかまでについての説明なり描写ドラマを挿入すべきでは。好意的に解釈すれば、息子さんの心理状態の不安定さから来るような問題に大和遼さんが振り回されていたのかもしれない、とか想像はできなくもないのですけども。
シネマロサのBFで鑑賞。
平日木曜日、座席の埋まり具合は7~8割といった印象。
冷房はそこそこ効いていましたが、湿度がだいぶ高い感触で快適とは言い難かった。