「監督が若い人たちに伝えたかったこと」ドマーニ! 愛のことづて 詠み人知らずさんの映画レビュー(感想・評価)
監督が若い人たちに伝えたかったこと
舞台は、終戦後、米軍が進駐し木戸番をしている1946年のローマ。
労働者階級で、アパートの半地下の部屋に住んでいるデリアは、夫と寝たきりの義父の圧迫に苦しみ、口よりも手が早く出てきて、しかも口を開けば、罵る言葉が出てくる貧しい環境で、幾つもの仕事を掛け持ちしながら、3人の子供を精一杯育てている。モノクロ・スダンダード画面で、まるでネオレアリズモを思わせるが、実はそうではない。音楽は時代を超越していて、アキ・カウリマスキみたいだし、深刻な場面になると、ダンスが入って、アメリカのミュージカルのような味付けになり、飽きさせない。
ネタバレとしなければいけないことが残念。
二つ大事な要素あり。
イタリアは、もともとカトリックが極めて強い上に、戦争前からファシストが支配していたため、男性中心社会が長く残った。特に日本と違うのは、財布も男性が握っていたこと。お隣のフランスでも、長い間、女性は夫の了承なしに、銀行口座を開くこともできなかった。ただ、この映画の主人公、デリアは、娘のために、ちゃっかりタンス預金している。彼らにとって、最も大事なことは、日曜日、できるだけ正装して、礼拝に出ること。
このような社会を打破する最も有効な方法は、女性が参政権を持つことだけど、この映画でも、それがポイントになる。女性が漸く参政権を持ったこの年、デリアは、困難を乗り越え、投票所に駆けつける。
一番、印象的だったこと。美しく育った娘のマルチェッラは、成り上がりの息子ジュリオからプロポーズされるが、表面だけをみて、母親を非難している。デリアは、マルチェッラが目の前の幸せをつかむことよりも、自分とは違って、チヤホヤしてくる男に騙されず、男を見抜く力を蓄えてくれることを、何よりも望んでいた。
肩のこらない、しかし見終わって、爽やかなものが残る、良い映画だった。