「まだ明日がある」ドマーニ! 愛のことづて TWDeraさんの映画レビュー(感想・評価)
まだ明日がある
比較的「小粒」なイメージの今週公開作品たち。今週(の劇場鑑賞)は金曜に観た『Flow』だけでもよいかと思っていたのですが、念のために確認し直してみると本作『There's Still Tomorrow(英題)』の米国映画レビューサイトの評価がかなり高いことに気づき、予定を組みなおして参戦決定。サービスデイのル・シネマ渋谷宮下10時50分からの回はまあまあの客入りです。なお、解説にある通り、昨年のイタリア映画祭2024(有楽町)では英題同様に原題『C'e ancora domani』の直訳『まだ明日がある』だったのを改題していますが、配給会社さん(スモモ)、これは変えなかった方が良いような気がします。
第二次世界大戦での敗戦からまだ間もない1946年。ローマに暮らすデリア(パオラ・コルテッレージ)は戦後の貧しさに負けぬよう、複数の職を掛け持ちながらたくましく生活しています。ただこの時代は女性の地位が非常に低く扱われていた時代。経済的なことを理由に進学を許されなかったり、教育を任された新入社員が「男」だと言うだけで自分より高給だったり、政治の議論に口を挟もうものなら怒鳴られたりと、女性はどこでも概ね「無能力者」扱いされています。
そしてデリアの場合、そういう状況に輪をかけて悩ましい夫・イヴァーノ(バレリ・オマスタンドレア)による度重なる暴力。そもそも、この家族の男性陣は舅(イヴァーノの父)、そして二人の息子も含めて皆、普通の会話にカジュアル且つ全部盛で罵倒語がトッピングされていて、ナチュラルにパワハラ&モラハラ。そんな父親から「毎回殴ればいいってもんじゃない」と(見当違いな)助言を受けるほどイヴァーノの暴力は度を越していて、「あ、始まる」と言う雰囲気を察すると家族は勿論のこと、近所の人たちもやりきれない様子。娘・マルチェッラ(ロマーナ・マッジョーラ・ベルガーノ)はされるがままの母にやるせない気持ちをぶつけますが、デリアはデリアで常に「愛娘に自分と同じ轍を踏ませまい」と思っているのですが…。
俳優、声優、脚本家、コメディアン、歌手など、多彩な才能の持ち主であるパオラ。今作では監督、脚本、主演を務めていますが、普通に観ているととても辛くなりそうなストーリーを、バランスよく散りばめられた可笑しみと、時よりミュージカル風に入り込む音楽使いに救われます。特に中盤以降の展開はダイナミックで、「まさかこのタイミングで!?」と驚きの事件も起こります。からの、いよいよ「ゲームオーバー」を予想させる終盤、デリアが言う一言「まだ明日がある」。そして、娘が母親の気持ちをようやく理解しての決定的なシーンは涙腺が熱くなります。
今を憂いているだけでは何も変わらない。明日という未来のために自分の意志を示すことは人間の権利。エンドクレジットで解説される「数字」が示す根拠に、全てあって当然の現代の自分たちも改めて、この時代の女性たちの「渇望」に刺激を受ける作品。観るべき一本です。