「辻褄合わせ症候群、通称ノーラン病」バットマン ビギンズ 柴左近さんの映画レビュー(感想・評価)
辻褄合わせ症候群、通称ノーラン病
小学生の時に観て以来久々に再見したが面白かった。
ノーラン作品の特徴は「いかにありえないことを本物っぽく見せるか」であり、圧倒的な映像を駆使したアクションシーンなどが目立つが、実は映画の半分ぐらいは本物っぽくみせるための説明のシーンだ。
理詰めに次ぐ理詰めで、観客が納得せざるを得ない状況を整え、アクションで一気に心を鷲掴みにする。何の変哲もない商品をあたかも魅力的な物のように宣伝し客に売り付ける一流セールスマンと似ている。
魅力的に見せるためには曖昧な要素があってはならない。ツッコミ所をとにかく潰していく。病的なまでに辻褄合わせを徹底するノーランは正に詐欺師だ。良い意味で。
なので表の顔は億万長者、裏の顔は悪を成敗する闇の騎士バットマンは、ノーランにとって最高のネタである。いかにこれほど現実味の無いキャラクターを本当に存在するように見せるか。本作はその部分に一番力を入れて製作したのではないか。
「ダークナイト」、「ライジング」に比べて地味に感じるのはそのためだろう。
ブルースが何故バットマンになったのか、何故コウモリのコスチュームを着ているのか、何故敵にとどめをささないのか。
更には何故バットマンに耳があるのか、何故ブルースは女遊びをするのか等々"アメコミ感"が漂う要素にはとにかく説明が成されている。そうすることで今一パンチの無い映画になってしまったが仕方ない。逆に今作が説明に徹したお陰で「ダークナイト」は傑作になった。バットマンの世界を前作でちゃんと説明し現実味を持たせたことにより、ジョーカーというトリッキーなキャラクターもただのイカれた道化師ではなく、"混沌の化身"として地に足ついたキャラクターになったのだ。
それに地味な、パンチの無いとは形容したが見所は随所に見られポイントも押さえてるので今作も一つの映画として観てもちゃんと面白い。やはりノーラン監督は凄い!