劇場公開日 2024年9月13日

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「良作だが、明治以降の歴史についても少し触れて欲しかった(補足入れてます)」シサム yukispicaさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0良作だが、明治以降の歴史についても少し触れて欲しかった(補足入れてます)

2024年9月17日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

今年334本目(合計1,426本目/今月(2024年9月度)20本目)。
※ (前期)今年237本目(合計1,329本目/今月(2024年6月度)37本目)。

 日本では中学以降の歴史で多少扱うことがある、松前藩とアイヌとの戦いを描いたものですが、史実に基づくとするもののフィクションの扱いのようです。ただ大筋において主要な登場人物は共通なので、この映画の主テーマでもあろう「シャクシャインの戦い」や、それに先立つ「コシャマインの戦い」、あるいはそれよりもっと前の定着後の文化についても理解があればよいかなといったところです。

 映画の本筋としてはフィクションという事情もあってどこまでが正しいかはわからないものの、一つの解釈としてはあるだろうというところです。また、この手の映画(方言関係。アイヌ民族を扱う映画のほか、場合によっては戦中戦後の沖縄を扱う映画等も)では「当事者不在」の作品がまま見られますが、関係者の後援もあり(エンディングロール参照)、きわめて質の高い作品となっており、ほぼほぼ無条件に推せるところです。

 この映画を見れば、日本が単一民族の国であるとか、あるいは単一言語の国であるなどという(一部の主張で見られる)ことはありえず、それは現在、2023~2024年においても同様です。日本ではアイヌ・沖縄に関しての教育は最低限といったところですが、最低限の知識以上は身に着けておかなければならないし、(単一民族だの単一言語だと言い張る方も根強くいる中で)日本にはこうした弾圧の歴史があったということは忘れてはならないところです。

 表題にも書いた通り、この作品は現在につながる部分について触れていないのがちょっと惜しいといったところです。もちろん過去について知ることは重要ですが、私たちが生きるのは今(2023~2024)だからです。この点については知る限り後述します。

 採点に関しては以下まで考慮しています。

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 (減点0.2/明治時代以降についても多少触れて欲しかった)

 アイヌ民族に対する偏見や差別は当時のものではなく、今にいたるまで程度の差はあっても存在しており、そうであるからこそ、明治時代以降の歩んだ歴史についても簡素であっても良かったので触れて欲しかったです。
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 (減点なし/参考/北海道旧土人保護法と旧民法(帝国民法)の矛盾)

 ・ 明治時代になると、映画内で扱われるような無茶苦茶な扱いは少なくなったものの、間接的差別は存在しました。「北海道旧土人保護法」という法律名それ自体もそうでしたが、間接的差別を目的としたのか内容が無茶苦茶な状況になっていた事情があります。同法は、建前上はアイヌ民族に対する差別意識、差別的政策を解消しようという名目のもとで、土地を無償供与する趣旨の法律ですが、当時与えられた土地はとても住めるようなところではなく、経済的に詰まる当事者が続出した事情があります(明治32年成立)。

 この法は土地の無償給与などを定めた法ですが、一方で当事者がそれを売ったり賃貸したりという「利益をあげる行為」を防ぐため、民法の物権の大半を除外する特別法の位置づけで「留置権、先取特権の目的となることなし」(原文のまま、現在の漢字表記に修正)といった記述があった法です。

 しかし留置権、先取特権は「法定担保物権」といって条件を満たせば当事者の意思と関係なく成立するものです(この意味で質権や抵当権と異なる)。つまり、日本が導入した民法と真っ向から矛盾するような規定が数多く存在した特別法の扱いです。今ではインターネットやSNS等で新規施行された法律も知ることができますが、当時はそのような情報を得る方法がまるで存在せず、一定のトラブルはありました(この場合でも立場の弱いアイヌ側が譲歩することが多かった)。

 ※ このようなマニアックな法律など当時の誰も知るはずが期待できないためで、実際に争うなら錯誤無効(当時。現在では取消し。95条)で争ったり、あるいは上記の事情から譲受人の保護はどうするのか(当時の333条。今も同じ(←先取特権と第三取得者))といった問題が山積していた(主に絶対的構成説と相対的構成説との対立がある)とんでもない欠陥法であり、これが平成9年、つまり、約25年前という「ごく最近」まで存在していたというのもまた隠せない事実です。

 (減点なし/過剰なアファーマティブアクションと当事者)

 日本には、雇用保険法という法律があり(失業保険でおなじみですね)、この中に、いわゆる弱者を雇用した雇用主に補助金を助成する制度があります(特定就職困難者雇用開発助成金)。主な対象者としてあげられるのは重度身障者や母子・父子家庭等ですが、「今現在においても」(2024年時点)、「北海道に居住している者で45歳以上の者であり、かつハローワークの紹介による場合に限る、アイヌの人々」というカテゴリが存在します(ほかは、「北朝鮮拉致被害者の帰国当事者」や「中国残留邦人等永住帰国者」といったカテゴリがあります)。

 一方で、この「特定就職困難者~」の申請件数(厚労省のサイトで確認可能)は、身障者関係で(ほか、知的・精神)、ついで母子父子家庭がつぐもので、現在2024年において「アイヌの人々」というカテゴリの申請はほぼ見当たらない状況です。

 そうであれば、そのような実績もなければ申請のないものを意味もなく制度化して優遇すること「それ自体」が「過剰な」アファーマティブアクションであり、またそれがさらなる差別を生みかねないということは指摘可能です(制度の存在「それ自体」が差別を助長する、ということ)。

yukispica