「和人(シサム)とアイヌとの江戸時代の交流を、アイヌへの搾取と迫害の歴史を避けずに描いた意欲作です。シサムにもそれを良しとしない人が居たことを含め歴史を語りかけてきます。」シサム もりのいぶきさんの映画レビュー(感想・評価)
和人(シサム)とアイヌとの江戸時代の交流を、アイヌへの搾取と迫害の歴史を避けずに描いた意欲作です。シサムにもそれを良しとしない人が居たことを含め歴史を語りかけてきます。
アイヌが登場する作品は基本的に観ておきたいと思って
いるので、この作品も予告を見た時から鑑賞予定でした。
一日一回しか上映枠がなく、観に行けるかギリギリのタイ
ミングで駆け込んで鑑賞です。 @_@ ; セーフ
さあ鑑賞。
話の展開にメリハリがついていて、テンポ良く話が進む印象でした。
舞台は蝦夷地の松前藩。
武士の家の次男に生まれた高坂孝二郎(寛一郎)。
孝二郎が蝦夷(アイヌ)との交易に行く兄に同行する形で、
初めて蝦夷地へと向かう。兄は優秀なサムライだ。
何をするにも ” 兄が一緒なら大丈夫だ ” と言われてきた。
何とか一人前のサムライとして認められたい。
そう願う孝二郎だが、目的地に着くなり嘔吐。船酔いだ…
一人前への道はまだまだ険しそうだ…。
海岸に建てられた小屋の中にはアイヌとの交易品が山積み。
和人(シサム)からアイヌへと渡す米俵や漆器だ。
アイヌからは鮭や熊の毛皮などが手に入る。
” 米俵が小さくないか? ”
それは孝二郎の目で見ても分かった。確かに小さい。
仕方ない。そういうものだ と兄は言うのだが…。
その日は寝泊まり用の小屋で夜を明かすことに。
夜中、兄がアイヌとの交易品を観てくると言って出て行った。
そしてその後、交易品の小屋から火が出る。
慌てて駆けつけた孝二郎の目の前には、何者かに切られた兄の姿。
” 善助にやられた ”
そう言い残して兄は命を落とす。善助とは使用人だ。
武士の子ならば、仇を討たなければ。そう決意し
船頭と二人で善助の消えた林の中へと足を踏み入れる孝二郎。
足跡をたどり、ようやく善助に追いつく。
” いざ尋常に勝負 ”
刀を抜いて善助に迫り、一刀を浴びせた。そのつもりだったが
右脇腹に感じる痛み。 手をやると赤い血が…。切られた。
痛みとショックでよろめき、藪を転げ落ちてしまう。
善助もトドメを差しには来ない。林の奥に姿を消した。
転げ落ちた孝二郎。身動きしない。死んだのか…いや
そこを通りがかった男たち。アイヌの男だ。
有り合わせの物で担架を作り、孝二郎を乗せて運び去る。
アイヌの村で、手当てを受けることとなった孝二郎。
致命傷では無かったが、すぐに動けるほどには軽くない。
図らずも、このアイヌコタンで療養することになる。
◇
と、まあ
こうしてアイヌの中に混じった孝二郎。
怪我が治るまでの夏の間を通してアイヌと暮らすことになります。
・アイヌの暮らしぶり
・和人が来てからの事
・アイヌに対する和人の差別
こういった事を理解するようになっていくのですが…
折も折、近隣のアイヌの酋長シャクシャインが松前藩に対して
反乱を起こしたとの情報がもたらされます。
動揺する孝二郎…。
松前藩のサムライとしての自覚。
兄の仇を討たなければとの想い。
アイヌの人びとに対する感謝の念
そして心に芽生え始めた仲間意識。
” 俺はいったい、どうすれば… ”
葛藤する中、孝二郎のとった行動は何か?
と、話は続いていきます。・_・
◇
この作品、史実を踏まえたフィクションとの事です。
歴史上の事件(シャクシャインの乱 1669年)を踏まえています
が、この作品が孝二郎とコタンの人たちとの交流を通して描きた
かったのは
” 江戸時代初期から幕末に至るまでの200年以上に及ぶ
和人とアイヌとの間に起きた人間関係のダイジェスト”
そういうことなのではないかなぁ と思っています。・_・
アイヌとシサムとの間には、江戸時代を通じてこのような歴史が
あったのだという事を、忘れずに覚えていて欲しい。--
そのような意図で。
◇
シャクシャインの乱は、結局は鎮圧されます。
アイヌに対する不公平かつ差別的な扱いはその後も続きます。
江戸幕府による蝦夷地調査が入り、管理が改められたりと
変化が見られるようになるのですが、それはまだ先の話。…うー。
最上徳内や松浦武四郎の時代を経て、アイヌに対するシサムの
取ってきた行いが明らかになっていくのですが、それはこの作品
の時代から100年も200年も後の話。うーん
ですが、蝦夷地を歩き回ってアイヌの実体を見聞きし調べて回った
上述の人たちの遺した記録のおかげで、アイヌの待遇が改善したり
もしたそうです。(少しですが ほっ)
反乱鎮圧の後、各地を歩き回って色々な見聞を書き遺したという
孝二郎の行動は、こういった事実に基づいて練り上げられたお話
なのではないかな と、そんな気がします。
※アイヌに対する不当な扱いを書き記そうとした者が実際にこの時代
にいたのであれば、それがせめてもの救いになる気がしています。
アイヌにとっての救いになっていないのが何とも悔しいですが…
ともあれ、観て良かった。
アイヌの事を知りたい方、ぜひ劇場で。
◇あれこれ
■アイヌの風俗・風習
ここ数年に観たアイヌの関連する映画は、かなりアイヌの文化に
ついて正確に表現しようとしているように思いました。
アイヌ女性の口の周りの刺青も、最近のアイヌが登場する作品では
ごく自然に表現されるようになったようにも思います。
(「ゴールデンカムイ」「カムイのうた」とか)
■砂金堀り
こうして生み出された砂金がいずれ、アイヌの隠し金塊となり
それを巡って血で血を洗う抗争が始まる。…のかもしれません。
そうなんですか? アシリパさん。
…知らんぞ 杉本 。
■鉄砲 vs 弓矢
森の中での鉄砲と弓矢での戦いの描写は、想像以上に迫力を感じて
怖さを感じるものでした。 ひぇー
森の中などで機動力を駆使して戦うゲリラ戦法においては、弓は鉄砲
に劣らない武器なのだだという印象です。
そうなんですか? アシリパさん。
…毒も塗るからな 杉本 。
◇最後に
「我等が何故、この土地を離れなければいけないのか?」
アイヌの長のセリフは、重くて哀しいものです。
後からアイヌの土地に入り込んで「俺の土地だ」という和人。
自分たちが暮らす土地は「カムイからの借り物」というアイヌ。
豊かな精神の持ち主はどちらなのだろうか と考えてしまいました。
☆映画の感想は人さまざまかとは思いますが、このように感じた映画ファンもいるということで。
共感ありがとうございます。
開拓、フロンティアの言葉の裏側には必ず先住民の迫害が有りますね、侵略者の子孫だと仲々声高に言えないですが・・詳しくはウルトラセブン「ノンマルトの使者」を。