劇場公開日 2024年10月4日

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「きもかわいいダストマルチャン」悪魔と夜ふかし 津次郎さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5きもかわいいダストマルチャン

2025年2月6日
PCから投稿

野心をもった才能がひしめく海外では定期的に新進ホラー監督がスマッシュヒットを飛ばすのでもう整理が追いつかないがLate Night with the Devilもそんな映画のひとつで批評家も賞レースも成功している。TALK to Me(2022)のフィリッポウ兄弟みたいな兄弟コンビ監督のColinとCameronのCairnes兄弟が監督し、製作国はオーストラリア・アメリカ・アラブ首長国連邦、SXSW(テキサス州でおこなわれる恒例のインタラクティブイベント)で2023年に初公開されたそうだ。
初月で試写に参加した作家のスティーヴンキングが「まったく素晴らしい。目が離せなかった。感想は人それぞれだろうが、ぜひ観られるときに観てほしい」とツイートしたという。

レトロと悪魔憑きとサイコキネシスをモチーフとしたファウンドフッテージホラー。
ファウンドフッテージとは我流な言い方を用いるなら「のろいのびでお」ということになる。ホラーで、どこかで見つけたメディアを見るか、出演者がそれ見ているところを見るか、なんにせよいわくつきっぽいメディアを再生してしまう構成が入っているホラーはファウンドフッテージもの、ということになるらしい。本作は人気パーソナリティのジェニーカーソン全盛期に設定されているから70年代のテレビ番組のつくりになっていて言わば全体が昔の映像記録(ファウンドフッテージ)になっているというわけ。

主役のDavid Dastmalchianは長いことキモ男や変質者ばかり演じてきて、病質のある役柄では完全なオーソリティになったので主役に昇格している。役者で無二なパーソナリティをもっていたら絶対だ。美人妻evelyn leighとのあいだには子供がふたりいる。David Dastmalchian wifeで検索してすこし幸せになってみよう。

英語ウィキのCritical responseには好評が並んでいて、全体的なコンセンサスはダストマルチャンの演技がいいということとレトロチックな舞台設定とそのギミックがうまくいっていることをほめている。
ぜんぶ同意するが、どうなるかはわからないにせよ、なんとなく読める話ではあったと思う。つまり放送中に放送事故がおこってカオスになる、ことはまず最初にわかる。あとは衝撃的な見せ場づくりになり、というのも庶民にとって放送事故が面白いのはOnAir中ゆえに取り乱すことができない出演者が取り乱すからだ。そんな混乱を、言ってみればジョーカー(2019)での生放送中の発砲みたいな臨場感で描いていく。
で、結果的にリグルズ(悪魔)はぜんぶ自分のなかにいたというオチでそれもどちらかと言えば普通だった。いいホラーだが絶賛されすぎているように感じた。結局Late Night with the Devilの中核にあるのはファウンドフッテージというよりはローズマリーの赤ちゃんであり、ジャックデルロイ(ダストマルチャン)は視聴率に執着するあまり悪魔に魂を売り崇拝のイニシエーションを経てじぶんがリグルズになっていることに気づいてなかった、という話だったと思う。ただし密室ドラマに徹して予算をしぼり、克明に70代のテレビ番組らしさを追求した雰囲気はよかった。

懐疑論者役でマイケルアイアンサイドっぽい人がでてきたときおやと思ったがちがう人だった。が、ナレーションをマイケルアイアンサイドがやっていたと知ってびっくりした。
imdb7.0、RottenTomatoes97%と82%。

海外ホラーは、無風状態の日本映画界とちがい、次から次へと新しい才能があらわれる。さいきん見たのだとボーはおそれているもアビゲイルもクワイエットプレイスのスピンオフも破墓もみんなよかった。
気になるのはタイウェストとミアゴスの次作。デミムーアに居場所とゴールデングローブを提供して話題になったThe Substance。神経逆なで系心理ホラーSpeak No Evil(胸騒ぎ、2022)もブラムハウスがジェームズマカヴォイ主演でリメイクしたそうだ。スマイルもツーがとっくに公開されていてアラジンのジャスミンがホラーに挑戦しているという。m3ganもツーが6月27日(2025)に公開されるそうだ。
かんがみて海外のホラー映画はホラーと言えどもわたしたちに潤いや楽しさや生きる希望をもたらすのであり「楽しい日本」なんていう意味がわからないことを言われてしまう現実のほうがよっぽどホラーではあるまいか。

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津次郎