「狂気、不条理、悪魔。70年代からの恐怖」悪魔と夜ふかし しゅわとろんさんの映画レビュー(感想・評価)
狂気、不条理、悪魔。70年代からの恐怖
70年代放映されたある番組の、世にも悍ましい放送事故を映したマスターテープが見つかった。それが40年以上経った2024年、劇場で上映される……。
「悪魔と夜ふかし」は、そんな設定のファウンド・フッテージ系ホラー映画である。
結論から言うと、この映画非常に良く出来ていた。
70年代を再現すべく、番組パートはなんと4:3の画面比率で展開される。その番組の途中で起きる不可解な現象に不安を覚えているところに、舞台裏を描くドラマパートが挟まれる。2つのパートで物語が展開していくが、その切り替え方がファウンド・フッテージ作品としては絶妙で、違和感も薄く仕上がっている。画面比率を活かした演出も非常に巧みで、終盤では本当にゾワッとさせられた。きっとテレビで鑑賞したらもっと恐ろしい事になっていただろう。
恐怖演出でのジャンプスケアはほぼゼロ。だがとんでもなく怖い。
昔のテレビ番組特有のノイズの再現や音楽をはじめとした雰囲気づくり、そして何より役者の演技が優れている証拠だ。
特に悪魔に取り憑かれる少女リリーを演じたイングリッド・トレリの芝居はとんでもないクオリティだった。取り憑かれる前から既に醸し出される得体の知れぬ雰囲気。無垢な邪悪さ、とでも言うべき終盤の笑い。そして何より取り憑かれてからの恐ろしい表情・動き……。特殊メイクはしているにしても、明らかにそれだけで出る迫力ではない。
個人的に言う事があるとすれば「怖くなる・面白くなる」までが体感的に非常に長い(しかし伏線が散りばめられており見逃してはいけない)事と、終盤の悪魔の演出・デザインに少々のチープさを覚えてしまった事か。しかし逆に言えばその程度である。
予測不能な上、全てを語らず考察の余地だらけのストーリーもあり、薄気味悪い後味と恐怖が私の心に刻まれた。帰り道の人の影がちょっと怖く感じた位である。
質の良いホラー映画を観たい方、モキュメンタリー物が好きな方には是非ともオススメしたい。濃厚なオカルト要素もある為、その手のモノに興味がある方もぜひ。
史上初・悪魔出演の生放送を、劇場で堪能しよう。