「{ホラー}のようで{ホラー}でなし」悪魔と夜ふかし ジュン一さんの映画レビュー(感想・評価)
{ホラー}のようで{ホラー}でなし
生放送のトーク・バラエティ番組「ナイト・オウルズ」の司会者
『ジャック・デルロイ(デヴィッド・ダストマルチャン)』は
低迷する視聴率の打開策としてオカルトショーを企画する。
1977年のハロウィンの日、
観客が集まるスタジオに呼ばれたのは霊能力者や
超常現象懐疑論者の元マジシャンなど。
しかし、最後にカルト教団のたった一人の生き残りの少女『リリー』と、
彼女を保護しカウンセリングを続けて来た超心理学者『ジューン・ロスミッチェル』が登場し、
『リリー』に取り憑いている悪魔を呼び出すパフォーマンスの最中に惨劇は起こる。
仕立ては〔ブレア・ウィッチ・プロジェクト(1999年)〕以降
{ホラー}映画の王道となってしまった{モキュメンタリー}。
(死蔵されていた)実際の放送ビデオと、
新たに発見されたスタジオ内の制作現場の記録ビデオを
時系列に再構成したとの触れ込み。
{ホラー}なので、事前の仄めかしや煽りのエピソードは幾つも挿入され、
最後の盛り上がりに向け心臓の鼓動は高まる。
肝心のシークエンスは〔エクソシスト(1973年)〕を思わせる場面もあり、
一瞬はっとさせられはするものの、そこまでの怖さはない。
放送現場での惨事は〔NOPE/ノープ(2022年)〕でも描かれており、
斬新さの面でもいま一つ。
が、本作に心を惹かれるのは
当時の「トークショー」の完全な再現に腐心したことに対して。
深夜なので多少の狼藉は許されるであろう前提で、
時にくだらない、時に猥雑な数々の企画がトライアルされ、
好評なら繰り返し生産され消費される。
視聴率を取るためなら手段を厭わぬスタンスは、
ある意味、当時の潮流でもあったし、パワーにも満ちていた。
「PC」に代表されるように、
妙に品行方正になってしまった今となっては、
郷愁さえ感じてしまう(なので〔不適切にもほどがある!〕のようなドラマができたのかと)。
〔リコリス・ピザ(2021年)〕が{ロマンチック・コメディ}の皮をかぶりながら
実際は1973年のサンフランシスコの風俗にオマージュを捧げたのと同様、
本作は{ホラー}と見せかけ、1970年代の「トークショー」そのものに捧げている。
我々世代にとってはレトロな懐かしさも、
若い人にとっては却って新鮮に見えるかもしれない。