劇場公開日 2024年10月11日

「この監督には「他人」ってこう見えてるんだろうな。」室井慎次 敗れざる者 キレンジャーさんの映画レビュー(感想・評価)

2.0この監督には「他人」ってこう見えてるんだろうな。

2024年10月27日
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ドラマシリーズ、劇場版の1作目は楽しんだ世代です。
2作目の『レインボーブリッジを…』の酷さに愕然として、それから離れていましたが、今回は時間も経ってあらたな『躍る』が見られるなら、と劇場へ。

謂わば本作は前編。
わざわざ二部作に分けたなら、それぞれにクライマックスをちゃんと作って頂きたい。
結局、過去の名シーンと人物紹介で描かれる「ただのプロローグ」でしかない。
冒頭に事件らしきものは起きるのだが、室井本人も近づこうとしないため、作品中でこの事件が進展することはない。
ただただ室井の生活を見守るというのが今回のお話。

で、それがこちらの心を打つようなハートウォーミングなものかと言うと、なんだかモヤモヤ。
もちろん次の『生き続ける者』で回収されるのかもしれないけど、わざわざ我々も費用や時間や手間をかけて来場しているワケで、そんな観客が満足する商品に仕上がっているとはとても言えない。
シリーズのファンが「懐かしい」と喜んだのなら結構なことだが、そのノスタルジーと作品のクオリティは別。

加えて言うと、メインの登場人物以外みんな「嫌なヤツ」か「関係ないヤツ」しかいないなんだけど、それでいい?
私は、「この監督には『他人』ってこう見えてるんだろうな」という、うすら寒い感覚があった。

警視庁のヤツらはみんな嫌なヤツ。
県警がらみは関係ないヤツ。
冒頭からコメディシーンを一手に受けてる新人お巡りさんの矢本悠馬なんて、ただの「役立たず」としてしか描いてないし、彼を見る視線も非常に冷たい。
村の人たちも、「排他的」を遥かに越えたケレンだけが描かれる。

とにかく出てくる大人がみんな嫌なヤツばっかりなのよ。

弁護士の生駒里奈。
あれはどういうつもり?
被害者の前で言うべきじゃないセリフ連発だし。
母親を殺した、それもあんな態度のヤツに拘置所で息子に無理矢理会わせて、心象が良くなるはずないじゃん。
弁護側としては、貴仁の気持ちを開いて心象改善のために会わせるって算段でしょ?
何の根回しもなくぶつけたの?
バカなの?
でも、もちろん犯人はちょっと改心。物語は都合よく進む。

あと、貴仁の高校の同級生の丹生明里が、貴仁のお母さんは殺されて亡くなってるけど、裁判が結審していないって話を聞いて「じゃあ、お母さんはまだ天国に行けてないんだね」っていうシーン。
あれはどういうつもり?
貴仁自身がそう受け止めてるって話ならともかく、他人が「あなたのお母さんは天国に行けていない」って、仮に思ったとしても本人には絶対言っちゃダメなヤツだよね。

メイン以外の登場人物たちに共通するのは、みんな外から見てどう考えても「無神経」ってこと。
さらに、これを作ってる側が無自覚どころかむしろ「良かれ」と思ってるフシが感じられるから、これはヤバいと思うんだよね。

そして「偏見」。
地方の集落に住む人たちへの視線とか、元警察だから…とか、ヤクザだから…とか、その人が所属しているカテゴリーにまとめて、ラベルを貼る感じ。
そこにいるのはあくまで「カテゴリー分け」されたパーツであり、一人の人間ではない。

だから、会話にもリアリティがなくて、物語を進めるために必要な話をしてるようにしか見えない。

この感じって、過去のこの監督作には多く見かけるので、そもそもそういうふうに他人を見てるんだろうな、と思う。

かなり最後で、室井が警察辞めて秋田にやってきて、自分で古民家をリフォームしようとして苦労する回想シーンが急に始まって、あまつさえうまく行かなくて頭をかきむしったり。
すごく変な流れで「何これ?」と思ってたら、ラストにその家が燃やされるって展開の『エモの事前注入シーン』だった。
…下手かよ。
もう少し自然にやってよ。

室井さんはどんなに暑くても、動きにくくても、あの白っぽい襟つきのシャツでちょっと袖をまくって、黒いベスト着て農作業とかするんだ。家のリフォームもそれでするよ。

…って。もうさ、近所付き合いしなくてそうなってくると完全な「変人」じゃん。そりゃ村人も「出ていってくれ」ってなるわな。
シリアスっぽいドラマなのに、リアリティなかったら伝わらないよ。

これだけ『破れざる者』で、種だけまいてフラグだけ立てまくって、ほぼ未回収なんだから、『生き続ける者』はきっちり盛り上げてくれるんだろうけど、いや、まずこの映画を観た観客を喜ばせて下さいよ。

あと『破れざる者』ってタイトル、なんか今回の話と関係あったかな。
まーいーや。

あー
また悪口ばっかり書いちゃった。

キレンジャー