「思った以上に続編に「お預け」の部分を多々残します。ただ、続きが楽しみで仕方なくなることは間違いなしです。」室井慎次 敗れざる者 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
思った以上に続編に「お預け」の部分を多々残します。ただ、続きが楽しみで仕方なくなることは間違いなしです。
本作は、1997年に放送開始され熱狂的なファンを生み出し、映画版も大ヒットを記録したテレビドラマ「踊る大捜査線」シリーズで柳葉敏郎が演じる人気キャラクター、室井慎次を主人公に描かれます。後編は『室井慎次 生き続ける者』で、2024年11月15日公開予定です。
●ストーリー
これまで現場の捜査員のために戦い続け、警察の組織改革に挑むなど波乱に満ちた警察人生を歩んできた室井慎次(柳葉敏郎)。27年前に湾岸署の刑事・青島(織田裕二)と交わした約束を果たせなかったことを悔やむ彼は、定年前に警察を辞め、故郷の秋田に帰っていました。そして事件の被害者家族・加害者家族を支援したいとの思いから事件の影響を受けた子供たちを引き取り、穏やかに暮らしていたのです。
ある日、室井の自宅のそばで他殺と思われる死体が見つかります。「とんでもない死体を見つけましたね、室井さん」。室井につきまとっていて、死体発見に協力していた地元の駐在警官の乃木(矢本悠馬)は驚きます。そして室井はその第一発見者とされてしまうのです。それにつけ込まれて、室井は捜査への協力を秋田県警察本部長に赴任しててきた新城賢太郎(筧利夫)から強要されてしまいます。
秋田の山奥の湖畔佇む室井の自宅の周辺には、のどかな風景に似つかわしくない、おびただしい数の警察官、ヘリや警察車両がひしめくなかで、なんと警視庁からも刑事部捜査1課から緒方薫(甲本雅裕)が派遣されてきます。発見された死亡した人物が、捜査1課が追う事件の犯人グループの一味ということで秋田県警と合同捜査となったのでした。
そのころ室井の前に謎の少女が現れます。その少女・日向杏(福本莉子)は、かつて湾岸署が逮捕した猟奇殺人犯・日向真奈美(小泉今日子)の娘でした。
これをきっかけに、室井は思いもよらぬ事件に巻き込まれていくことになります。
●解説
主な舞台は、自然豊かな片田舎にある室井の家。過去のシリーズを踏まえると、がらりと一変した雰囲気の中で物語は展開しますが、これが面白いところ。農作業にいそしみ、里親となって少年だちと穏やかに暮らす室井の姿が興味を引きます。室井ならではのしぐさも飛び出すのです。もちろんあの苦虫を潰したような顔つきは、秋田に移っても健在でした。
笑いの要素も忘れないのが、このシリーズの良いところです。駐在警官の乃木をはじめ、なぜか早口でまくし立てて室井にからもうとする人物が次々登場します。
もちろん、それだけでは映画になりません。室井の家の近くで遺体が見つかり、かつて室井と青島を苦しめた殺人犯・日向真奈美の娘という、謎めいた少女・杏が現れます。 その後の展開は期待したほどの派手な動きはなく、謎は深まるばかりです。もやもやもしましたが、室井と少年の背景事情を明かしていくことで、終盤までのドラマ性を担保しているのが心憎かったです。また、室井が見慣れた黒いコートに身を包む場面もあれば、過去作の映像も差し込まれて、懐かしい気持ちにもさせられました。
結局この前編では、室井が自分自身を負け犬だと吐露する、警察を辞めてしまった理由を明かすことが主眼となっています。そのため死体で見つかった詐欺グループの犯人で、20年前の レインボーブリッジを封鎖しようとした事件とも関わりが指摘された人物の存在がどう現在の室井に関わってくるのか。そして新城本部長に脅されて渋々捜査に協力することになったこの死体発見事件に室井が捜査手腕を発揮するのか。はたまた杏を通じて、母親の日向真奈美がどう室井とからむのか。さらには室井の自宅の倉庫が放火される件で、犯人は誰なのかなど、思った以上に続編に「お預け」の部分を多々残します。ただ、続きが楽しみで仕方なくなることは間違いなしの出来栄えでした。
●10/13追加コメント
あちこちでコメントしたことをまとめてご紹介します。
あと、室井さんの作ったら料理が美味しそうに見えたのは僕だけでしょうか?といいつつも、週3日もカレーを作ったら、そりゃあ室井さんのカレーは子供たちにあきられるなと思いました。
そのときの言い訳が、元管理官だった室井さんらしからぬ不明瞭さです。
ビーフ、ポーグ、チキンと日替わりで具材を変える工夫をしていると自身の努力を必死にアピールするのですが、それを食べさせられる子どもたちにとって、カレーはカレーだったのですね。
男の手料理はこだわりはすごいものの、あれこれ細かくメニューを変えることは面倒で、どうしても同じ料理を頻繁に作りがちなものです。
ところで、室井さんでも警察組織を変えることができなかったなら、今は捜査の現場を離れ、捜査支援センターに配属された青島はどんな気持ちでいるのでしょうか。
青島が現場を離れることになったきっかけにもドラマはありそうです。
今回の「踊る」シリーズの復活が青島でなくて、室井になったのかというのも疑問です。亀井刑事が復活した時、ありたけの情熱を寺脇康文は、水谷豊にぶつけていましたが、織田裕二は昔の情熱を失ってしまったのかもしれません。
でも青島もまた現場を離れて、捜査の情熱を失っているのかもしれません。今回の復活では、過去のシリーズでの活劇からグッとエモーショナルな内面を抉っていく作品に変わったことを引き継いで、もし青島が再登場する続々編があるとしたら、かなり意気消沈した、誰もが見たいとは思えない登場の仕方になるのではないでしょうか。
ところで柳葉さんと室井さんはなぜ秋田県にこだわるのでしょうか。作品までが秋田に忖度しています。
でも登場するのは、よそ者排除のこわいおじさんたち。気に入らないよそ者は猟銃で撃ち殺し兼ねません。
案外犯人は地元民なのかもしれませんね。秋田の人はみんなああなのかしらんと誤解しそうです。