「組織、約束、家族。或る男の生き様」室井慎次 敗れざる者 TSさんの映画レビュー(感想・評価)
組織、約束、家族。或る男の生き様
「踊る」シリーズをドラマから見てきたが、劇場版は1作を除き全てTV放送でしか見ていない。シリーズは好きだが、正直、映画館で見るほどのことはないんじゃないかと思っていたので、今回も観に行くかどうか迷った。今更感もあり・・・。
本作はシリーズを見た人でないと理解しづらいファンムービーだ。これだけ間が経過して作った新作。初見の若い観客を集められるとも思えない。恐らく製作陣もヒットを狙って作ったのではないだろう。やり残したものがあったからこその新作だと思う。
果たして、今までのシリーズとは別のものに近い仕上がりになっていた。
「踊る」シリーズの面白さは、刑事ドラマを「組織の中で生きるサラリーマンドラマ」風にコミカルな味付けで描いたところにあると思っている。そしてその中に「現場警察官・青島とキャリア警察官僚・室井の友情と約束」という一本の太い軸がずっと貫かれていたからこそ、シリーズ物として成り立ってきたのだと考えている。
しかし今回、その「約束」を果たせず「組織」を離れた男が「家族」をつくる・・・。
2部作の前編である本作では、組織人でなくなった室井慎次という1人の男がどういう人間かを、引き取った里子たちとの生活を通してじっくりと描く。相変わらず眉間に皺を寄せ、寡黙な男。その男が表情と仕草で魅せる、正義感、優しさ、逞しさ、歯がゆさ、後悔・・・。警察官僚だった頃の彼からも漂っていたものが、自然に、そしてより鮮明に表現されていた。
逆な言い方だが、地元秋田で室井が柳葉敏郎になっていた。そう感じた。それで違和感がなかったから凄い。
里子のタカを演じた齋藤潤は、今年「カラオケ行こ」で初めて知ったが、存在感のある役者になりそうな感じがする。杏役の福本莉子も注目株だと思うが、不気味さがもう少し欲しかった気はする(キョンキョンには勝てないよね)。後編に期待しよう。
本作で発生した事件は、室井と里子達の生活に大きな波風を立たせる。室井は組織に戻るのか、家族と生きるのか、それとも・・・
前編「敗れざる者」、後編「生き続ける者」というタイトルから、どういう結末になっても、彼は彼としての信念を曲げずに生きるのだろうと推測する。
製作陣がどういう結末を用意してくれているのか。後編に期待。
(2024年映画館鑑賞28作目)
コメントありがとうございます。
レビューを読ませていただいて、
〉今までのシリーズとは別のもの、
すごく誠実な映画でしたね。
青島が過去にしかいない理由もよく分かりました。
製作陣の「踊る・・・」ファンへの誠実なアンサー、
その意味で懐かしくて愛おしい映画になりましたね。
コメントいただいて感謝です。