「壮大なプロローグを経て、次作が今から待ち遠しい」室井慎次 敗れざる者 おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)
壮大なプロローグを経て、次作が今から待ち遠しい
言わずと知れた大ヒットテレビドラマ「踊る大捜査線」。その後もスペシャルドラマや劇場版やスピンオフ作品などが数多く作られ、その度にメディアで大きく取り上げられていました。おかげで、シリーズ作品を一度も観たことのない自分でも、なんとなく概要を察することができました。というわけで、本作もなんとなく理解できるのではないかと、シリーズ初参戦を果たしてきました。
ストーリーは、若き日に青島刑事と交わした約束を胸に、長年にわたって警察組織の改革に挑みながらも果たすことが叶わず、定年前に警察を退職した室井慎次が、故郷・秋田で事件関係家族支援の思いから里親として二人の少年たちと穏やかな生活を送っていたある日、自宅の近くでは死体が見つかり、室井の前には自分宛の手紙を携えた謎の少女が現れ、そのどちらもがかつて手がけた事件との接点があり、室井は否応なく巻き込まれていくというもの。
随所に過去作の映像を差し込んでおり、過去に関係のあった人物との会話からも室井の人物像を察することができ、シリーズ初参戦の自分でもなんとなく背景が理解できました。おかげでストーリーから置いていかれることはなかったです。そもそも、本作そのものに、事件解決や真相究明的なストーリーはありません。今回は壮大なプロローグで、次作の土台となる人物相関や背景を描いているに過ぎないといった印象です。そういう意味では肩透かしを食らった感さえあります。
とはいえ、室井慎次という男の人となりを描き、現在の彼を取り巻く人々や共に暮らす子どもたちと織りなすヒューマンドラマとしての見応えはあります。円熟味を増した柳葉敏郎さんだからこそ魅せることのできる少年たちとの温かな交流シーンは、じわりと心に沁みるものがあります。他にも、シリーズファンなら懐かしくて感涙にむせぶような出演や演出も、そこかしこにあったのではないかと思います。
さて、下地はしっかり整いました。今から1か月後の次作が楽しみでなりません。本作で何度も登場したレインボーブリッジ絡みの会話、謎の少女・日向杏の母・日向真奈美の関与など、気になることも多かったので、次回作の公開前に過去の劇場作品だけでも鑑賞しておこうかなと思います。ひょっとしたら、この二部作の構成と公開時期の間隔も、こうやって観客に過去作を復習させるためのものだったのかもしれません。だとしたら、完全にその戦略にハマってます。😆
主演は柳葉敏郎さんで、穏やかな佇まいのうちにも熱い思いを持ち続ける室井慎次を好演しています。脇を固めるのは、福本莉子さん、齋藤潤くん、前山くうがくん、矢本悠馬さん、生駒里奈さん、筧利夫さん、飯島直子さん、木場勝己さん、小沢仁志さん、いしだあゆみさん、松下洸平さん、佐々木希さん、甲本雅裕さんら。
そうです!いしだあゆみさんの登場は衝撃的でした。小学校高学年のお正月のお年玉ではじめて買ったレコードが、いしだあゆみさんのリサイタルLPでした。あの日からだいたい55年。感無量です。