港に灯がともるのレビュー・感想・評価
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達観したって事か
初め、理由はよく分からないけど、倦怠した雰囲気から始まり、喧騒、慟哭、嗚咽を伴って不和が表現される。理由を仄めかすワードはで始めるが、ハッキリとは語られず、それを内に秘めたまま家庭と個人が壊されて行った。そこから順を追っての元への再生ではなくてリノベーションの話。
もっとはっきり主人公家族に具体的に起こったトピックを創作してくる筋書きかと思ったけど、そうじゃなく普通の生活を営んで来た普通の人達の過去と現在を何重にも重ねることで、生きていれば誰にでもある・あった観客個々の不安や不満などの経験を想起させ、登場人物達の情緒に寄り添わせる事で、映画のメッセージを自然と吸収させようとしていたように思う。
ちょっと引っかかったのは、比較的診療所を早く退所して就活した事。あの辺りの時間の進み具合がよく認識出来てないけど、発作や症候群めいたものは時折その後も表現されていて、秘密にしてでも診療所に通いながらという演出を取らなかった趣旨は何だろう?と思った。完治といかなくても復調のきっかけを掴んだのは分かったんだけど、あの辺りの心と身体のバランスの演出の仕方が、映画の主題がボヤけるとしても、その設定にして、アノ長回しを入れ込むぐらいなら、もう少し大事に扱っても良いのでは?とは感じた。
それよりもそんな状態にしたであろう原因の一つ一つを同時に潰しに行けるだけの強さがあったって事なんだろうか。。。
全体的には、よく考えて作られている良作なのは間違いない。
最大の敬意と感謝を。
震災後の神戸、在日韓国人女性、心の傷、人と人との分かりあえなさ・・・
難しいテーマが、いくつもあって、1つのテーマだけでも映画として成立しそうなのに、それを1作品、しかも2時間以内にまとめた安達監督は、本当にすごいです。
そして、主人公を灯を演じた富田望生さん。
演じたというより、『スクリーンの中で、灯として生きていた。』という言葉がしっくりきます。今も、『灯は確かに神戸にいる。』そう思う事が自然なくらい。
圧巻だったのが、トイレでの長回しのシーン。ひたすらトイレのドアだけを撮り続けます。それなのに、息をするのを忘れるくらい見入っていました。
扉の向こうには、灯が自分の心と闘っているから。「息遣い」だけで、このシーンが成立していました。そんな俳優さん、他にいるでしょうか。
「灯、頑張れ、大丈夫。灯のペースで。。」祈るような気持ちでドアを見続けていました。灯を応援していた言葉が、気がつけば、私自身が灯を通して励まされていました。
涙が止まらなかったです。
こんな突き抜けた演出をした安達監督は、私たち観客にちゃんと伝わると、「監督は、観客の事を信じてくれている。。。」そんな感情さえ芽生えました。
また、本作は、膨大な時間をかけて、取材を重ねたとの事。だからこそ、作品に散りばめられた言葉の数々が印象に残っています。
特に、灯の精神科の主治医の「あなたが感じる感情は、あなたを守るための感情。だから全て正しい。」私は、この言葉に本当に救われました。
そして、「私は私として生まれてきてしまった。」という言葉。
私は、不眠症で眠るという当たり前のことが上手くできず。そんな自分が情けなく、受け入れたくなかった。だけど、灯さんと出会い、この言葉と出会い、少しずつ受け入れていこうと思えました。
とても、誠実な作品。この映画と出会えて良かった。「港に灯がともる」に携わる全ての方に最大の敬意と感謝を込めて、ありがとうございました。
みんなしんどい
阪神淡路大震災を起点に、在日韓国人女性の生きづらい日々が描かれているが、コロナなどもあり、現代社会で苦しくない人なんていないよなあ…と、色々考えさせられた。
震災の直後に生まれ、母親にあの時は大変だったと聞かされ続けたというエピソードに、聞かされる側にも思いがあり、時に負担になるのだとハッとした。
父親もいつも不満や怒りを表して苦しそうだが、伝えていく事や昔語り等と 価値観を押しつける事は違う。その人の立場、出自、年代などでも考え方が異なるだろうが、この家庭の場合、特に在日というバックグラウンドもあり、難しいなと感じた。
一応は話を聞いてくれて薬も処方してくれるけど…みたいな病院より、渡辺真起子さんの演じる医者とその病院が良かった。
灯は、移動中いつもヘッドフォンをつけているけど、音楽は心の拠り所の1つなんだろう。ラストで笑顔、また苦しくなることはあるかもだが、くっついてる嫌なこと全部、うまく共生できるとよいね。
話を聞いてくれる誰か、居場所。いつもあるといいよね。
*****
2024年4月に望生ちゃんの「日日芸術」を映画館で鑑賞。こちらが初主演だと思ってたのですが違うのかな?
その際のレビューにも書きましたが、体重コントロールや、役に入るとプライベートにも引きずる等の話をテレビで聞き、根性のある女優さんと思い応援しています。
鑑賞動機:富田望生10割
徹頭徹尾みっちり富田望生が詰まった映画。超ロングカットもいくつかある中、映ってないのに息づかいだけで心のありようを表現しているシーンは、少なくとも私にとってはとても印象的だった。
泣いたり叫んだりの極端な場面も多くなってはいるが、それだけじゃない何気ないシーンでも、目線とか姿勢とか意識されているのだろうと思えた。
完全に親戚目線だけど、望生ちゃん、本当に立派になったなあ、うんうん。
ベッドホン
気になっていた映画
1日に一回上映なので
早めに鑑賞
観たい時に終わってそうだったので
富田望生ちゃん
朝ドラのなつぞらから好きな俳優さんなので
初主演映画は観ないと☺️
阪神淡路大震災絡みという事だけ認識して鑑賞
主人公
鬱になり、そこからの復活しつつの生活
震災からの復興にもかけてるのかな、、、
家族の関係などが絡んでいる映画でした
家族と上手くいってない
というか、父と上手くいってない感じが凄くリアルだった
かなり重めの話で当事者意識を持てる人は少ないが、置き換えをできる人ならば変化が理解できるかもしれません
2025.1.18 MOVIX京都
2025年の日本映画(119分、G)
震災後に生まれた在日韓国人3世の葛藤を描いたヒューマンドラマ
監督は安達もじり
脚本は安達もじり&川島天見
物語の舞台は、阪神・淡路大震災から20年後の神戸
祖父母の代で日本に来た韓国人一家は、神戸の長田に居を構えて、祖父の工場で生計を立てていた
祖父が亡くなり、父・一雄(甲本雅裕)がその工場を継ぐことになったが、2005年1月17日、阪神・淡路大震災が起こってしまう
工場は潰れ、生き延びる為に住む場所も仕事も変えるこことを余儀なくされる
当時、長女の美悠(伊藤万理華)は幼児で、次女の灯(富田望生)は震災の翌年にこの世に生を受けていた
さらに数年後に長男の滉一(青木柚)が生まれ、子どもたちは日本に来た苦労も、震災の余波も知らずに育ってきていたのである
灯もようやく成人式を迎え、お祝いをしようという雰囲気になるものの、両親は不和状態で別居と言いだすし、姉はとんでもないことを言い始めてしまう
それは、結婚する為に帰化をするというもので、姉の中ではすでに決まっていて、他のみんなはどうするか、という選択を迫るものだった
姉はそのことで父と喧嘩になり、それ以降も何かあるたびに衝突を繰り返していく
そんな中、灯はどうしたいかがわからないまま、流されるように帰化の方向へと進んでいくことになった
物語は、祖母の死によって再会した家族が、帰化問題でさらに険悪になる様子が描かれていく
姉も灯もすでに外に居を構えていたが、この一件から灯は情緒不安定になり、精神科にかかるようになってしまう
改善が見えぬまま、仕事を辞めて母(麻生祐未)の元に居候することになり、弟からは嫌味を言われてしまう
そんな中でも帰化問題は勝手に進んでいて、灯は「死にたい」と考えるようになっていた
灯の不調を心配する親友・寿美花(山の内すず)は、垂水にある「富川診療所」に行ってほしいと言い、そこは彼女の母がお世話になったところだと告げた
映画は、灯が富川医師(渡辺真起子)の診察を受ける中で、自分の心に浮かんだものを書き留めていく様子が描かれていく
それらを集会で発表することになり、徐々に自分というものがわかってくるようになった
さらに、父と同じようにすぐに激昂する参加者・林(田村健太郎)を見て、父となぜ分かり合えないのかを感覚的に捉えていく
その後、灯は設計事務所に転職することになり、かつて自分が住んでいた街・長田にある「丸五市場」の再建に関わるようになっていく
設計事務所の青山(山中崇)は、酒で失敗したことがある男で、彼の共同経営者・桃生(中川わさ美)と長くこの業界を生きてきた
青山は丸五市場の老朽化を何とかしたいと考えていて、そこが「いろんな人種の共生場所」であり、震災当時が助け合いの最前線だったことを知っていく
そんな中で、灯のマインドが少しずつ強くなっていき、父親と話せるところまで回復するのである
個人的な感想だと、自分自身を構成する要素についての物語で、灯も父も「自分が組み込んだもの以外の要素の多さ」に悩まされているように感じた
生まれながらにして「祖父母の苦労」「両親の苦労」というものがのしかかっていて、さらに震災でおかしくなった過去と、在日であることの危うさというものが突きつけられてしまう
二十歳そこそこの人に消化できる問題ではないのだが、目的が明確な姉はそう言った問題には振り回されていない
彼女の中にも同じようなものが重積していたと思うのだが、ある種の割り切りを持っていて、それは父親を反面教師に見ているからのように思えた
人には体験による構成要素と、知識として蓄えられる構成要素があって、当初は知識が多いけど、体験がそれを上回っていくものだと言える
普通の家庭だと、知識を体験で上書きできるのだが、灯たちはその知識を体験で上書きすることができない
なので、そのまま知識として残っているのだが、「それを理解できないのはおかしいとい価値観を持つ人間」がそばにいて、それに攻されてしまう
わかりあう為には、相手の理解度というものを確認する必要があって、伝えたと伝わったはイコールではない
その欠如の繰り返しが「相手がわかってくれない」という固定概念に繋がっていて、そのわかりあいを無駄だと割り切っているのが姉なのかなと思った
いずれにせよ、かなり重めの映画で、ほとんどの人が傍観者になる映画だと思う
とは言うものの、親から過剰な要素を押し付けられている人はたくさんいるし、自分を構成する要素が薄まることに恐れを抱く人もたくさんいるだろう
死にたいと考える人もいれば、そう思っているんじゃないかと周囲の闇を感じて悩む人もいる
そう言った世界でどのように生きていくかといえば、結局のところ「自分の体験によって生まれた構成要素を大事にしつつ、相手の構成要素にも敬意を払う」と言うことなんだと思う
父がなぜ帰化を拒むのかと姉が帰化を急ぐ理由は相反する概念ではなく、その角度は微妙に違っている
だが、その相違が生まれるのが世代というものであり、それを埋めるかどうかは「それぞれの価値観で決めるもの」なのだろう
それによって薄れてしまうと感じるかもしれないが、実際にはそれで自分の構成要素がなくなるわけではないので、そこをきちんと分別することが大人として生きることなのかな、と感じた
30年は淡々と
生まれも育ちも神戸で、今も神戸に住んでいます。震災も20歳を過ぎてから経験しました。この30年の日々は淡々と過ぎていき、その間に父が亡くなり母が亡くなり、辛い事も幸せな事もたくさんありましたが、気がついたらもう30年かーと思う感じです。生きて行く中でいろんな事があったとしても、現実はもっと静かに過ぎて行くもので、ドラマの「心の傷を癒すということ」にはそれがありましたが、この映画にはそれを感じませんでした。たしかに富田望生さんの泣きの演技は素晴らしく、とても惹き込まれましたが、灯だけではなく、父親が怒鳴り叫び、母親が叫び、カウンセリングを受けてる人も怒鳴り叫び、上司も怒鳴り叫び、正直ちょっとうるさいなと思ってしまいました。話の内容よりもその事しか今残ってないです。灯と父親の対比となる静の部分がもっとあればよかったのに、と思いました。
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