「自分が知らない在日韓国人の苦難、阪神淡路大震災からアイデンティティを確立した灯」港に灯がともる かなさんの映画レビュー(感想・評価)
自分が知らない在日韓国人の苦難、阪神淡路大震災からアイデンティティを確立した灯
映画館でどうしても見ることが出来ず、U-NEXTで配信されているのに気づき早速見てみました。
心に染み入る映画でした。皆さんにもおすすめします。
灯は成人式を迎えてもアイデンティティを確立できていなかった。彼女は父から在日韓国人の苦難や阪神淡路大震災で生活が大きく変わったことを聞かされる。自分が知らないこと、どうしようもないことを。そして家族もほとんど自分のことをわかってくれないことから、灯はたえず混乱をかさね、うつ病に罹患してしまい社会復帰を目指した。
灯はうつ病のとき父に会いに行き、父からまた在日韓国人、震災のことを聞かされ、トイレにこもり嗚咽する声が長々と続くシーンは灯の心の苦しさを明確に描写していた。
灯はうつ病が完治して設計事務所で働きだす。三人しかいない職場であるが人間関係や仕事は楽しさを持って取り組んでいた。灯は仕事を通してその人がほっとできる居場所を作りたいと思うようになる。そして職場や仕事で出会う人たちとのコミニケションを取り合うことで、灯は徐々に自分を取り戻していく。
父と別居した母、姉、弟と灯は日本人への帰化申請をして日本人になった。そして新たな仕事、長田地区にある丸五市場改築にかかわるようになる。長田地区は震災前両親と祖母が暮らしていた場所だった。
丸五市場で出会う外国人。そこでは日本人と外国人が共生していた。国籍関係なく皆がお互い助け合いながら生きている場所だ。灯は丸五市場改築の仕事を通して、日本人、外国人と壁のないコミニケションを見て、心の交流ができる自分の居場所を初めて見つけたのだ。
灯は丸五市場の歴史にふれていくと、父が言うことを少しずつ理解していく。変わらないことの大切さ、変わることの哀切さ。若いときは自分事でないものに関心を持てないが、自分自身が他者とのかかわりの中で知っていくと、それらを歴史としてとらえていける。単なる知識ではなく実のある感覚、実感として把握できるようになる。人は歴史の流れのなかに存在するからだ。そのことを知った灯は、ようやく真のアイデンティティを確立した。単純に日本人に帰化したからではなく。灯は自分で世界をひろげ、その養分を十分吸収し、一人の人間として成長したのだ。