劇場公開日 2025年1月17日

「分かり合えず崩壊も、今分かり合おうと構築したい」港に灯がともる サスペンス西島さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0分かり合えず崩壊も、今分かり合おうと構築したい

2025年1月19日
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鑑賞方法:映画館

2025年劇場鑑賞3本目 名作 85点

あさひなぐから認識した富田望生や、その作品で共演したり乃木坂46出身、多趣味でコケ好きやヘッドホン姿が似合う伊藤万理華、23年邦画ベストのまなみ100%の主演であり、平井亜門や倉悠貴の背中を追う青木柚など、近年の邦画ミニシアターを引っ張り代表する面々が主要キャストとして、以前から告知されていたので、新年早々の公開待機作の中で1番楽しみで期待していた作品

作品としては、同日公開のサンセットサンライズ同様、色々な要素を組み込んだ故のこれ!という旗印がボヤけている印象は若干拭えませんが、それでも伝えたいことや、見どころのシーンの絵と空間と表情や発声などの演技が大変素晴らしく、印象的なシーンが多かった

この手の自然災害や事故事件によって街も人も時間が止まってしまい、そこから再生と絆を描いた家族ドラマがありふれている中、今作は時代と出来事から止まった父の概念と家族(特に娘)への向き合いや接し方に対して、その生き抜いてきた時代や出来事を肌に感じていない、言葉でしか知らない上で育ち、そこを離れ一人前になる娘との反比例な親子関係のむず痒さが痛いほど伝わった

沸点が低く、甲高い発声ってストレスですよね、非常にわかります。わたしは耳も心も塞いでしまうので、崩壊するも気づき再構築しようと素直に向き合う富田望生の強さには尊敬の念が湧きました

物語冒頭の成人式後にケーキを持ち帰り家族団欒を望むも、特別な日にはならなかったり、精進落としのシーンの怒鳴りやその後の父を除いた兄妹の中で腰を落とすシーン、別居している父の家に勇気を出して告白するのに伺うも、現実は期待していた様にはならず、変わらず平行線を辿る意見や感覚、声の色合いの違いに、日々のストレスや会話にならない父への変わらないストレスなど、色んな感情が入り混じり肩を落としうちひしがれトイレに逃げ込む呼吸を整える1分ほどの静寂な長尺ワンカット、物語終盤に言葉で散々言われてきた苦悩をコロナ禍を受けたり、業務にあたってかつての町の出来事での悲惨さを、真に理解はできなくとも、少し肌に感じて、父への向き合い方を彼女なりに改めて、呼吸を整えて、顔を合わせて話すことはお互いにとってまだ到底難しいことから、ベンチに座り電話をかけ、近況と秘めていた心境を言葉震えながらも、本番全部は告白出来なくても、今、自分の言葉で話せたこと、そして、それを平穏な眼差しで耳にしてくれたこと、緊張が解け一言、『こんな会話がずっとしたかった』とお互いの止まった時が今動き出すシーンなど、等身の様に心が抉られ、こちらが感極まるシーンが本当に多かった

物語冒頭で成人式に向かうのに車に揺られ到着すると、一人前とは1人で生きていくということだみたいなことと、体に気をつけてなと言葉を受け、物語終盤で彼女の口から体に気をつけてねと心が開いた、真心が通じ合った台詞の紐付けが心地よい

転職面接時に、言葉を並べるのではなく、心からの本気の言葉を耳にして、同じく苦労をしたことを肌に感じ、種類は違えどお互いが通じる痛みがわかると、思いやれる言葉を投げることができ、その言葉が溶け込み、次のカットではもう既に働いていたのが、誰かは君を見ていて、わかる人は必ずいると観客も認められた様で涙を禁じ得ない

日々の些細な仕打ちや心無い言葉に動揺するのが、年頃の女性らしく、わかりやすく暴食に走り、終いに上記でも書いたが成人式後のお祝いに家族団欒を望んだものの実現しなかったケーキを、自分へのご褒美にまた買うも開けるとひっくり返っている、些細な恵まれてなさや現実の追い討ちの様な非情さに精神が崩壊したり、それがフラッシュバックする様に、順調だった転職後の仕事が社会情勢の影響もあり、顧客が悪いわけじゃないからこそ、その契約が破棄された怒りをぶつける矛先のなさがより一層怒りを込み上げ、丹精込めて作った建築モデルを崩壊させようと思い留まるところなど、それぞれ前者ならお祝いのケーキが逆さまなのが祝われてない、祝福されていないとも見えるし、後者の建築モデルを壊す動作は、災害をも彷彿させるなど、崩壊した時のアイテムが観客も容易に意味を想像させられるのがよくわかる

前職で、お前が休んだところでどうにでもなるだろとか、そうなのかもしれないけど、新入社員でこれから頑張っていこうと(挨拶に回っているシーンや毎日のバス勤務のシーンなど)してる中での、心無い言葉をかける父は、それは時が止まっているとか関係なく、あなたの人格として、長く人生を送っている人として事実を言うべきでないのに、器用にわりきれていないのが、娘が単に感覚や意見が違うだけでなく、人として無理な部分が多過ぎて無理!と思うのも非常に痛いほど理解できる

世間の評価が香ばしいのが大変残念ですが、本当に傑作だと思ってます

是非

サスペンス西島