「救えなかった1331人の子供達が50年間心の重しとなる」ONE LIFE 奇跡が繋いだ6000の命 クニオさんの映画レビュー(感想・評価)
救えなかった1331人の子供達が50年間心の重しとなる
実話に基づく伝記で、こんな偉人が頑張りました、女王からも顕彰されまして、と言ったら身もふたもない。偉業に対して難癖のつけようがなく、正真正銘の感動作なのは間違いありません。ポイントは後年テレビ番組で紹介され本国で多大なる反響を得た点でしょう。この構造のために主人公ニコラス・ウィントンに扮する役者を2人に分けたところが本作のミソでしょう。開戦前の緊迫の救出劇を担った若きニッキーにジョニー・フリンが、50年後の後年のトピックのために名優アンソニー・ホプキンスが老いたニッキーを演ずる。
過去と現在(と言っても80年代)を織り交ぜながら、事の次第を明らかにしてゆく。しかし現在のニッキーはまるで亡霊のような有様で、過去の記録と決別出来ず半世紀も逡巡の渦中にある。何故? が本作のポイントです。シンドラーから杉原千畝まで多くのユダヤ人を救済した美談は数多描かれてきたけれど、無論ほんの一部の人数でしかないのは現実。プラハでのナチスを逃れての難民のせめて子供達だけでもと言ったところで約2000人もいるとか。状況が悪化の一途の中繰り返し子供達を列車に乗せ、イギリスでの里親まで送り届ける決死の行為によって669人を救えた、けれど約1331人は間に合わなかった事実が、彼を苦しめていたわけです。
約1331人の子供達はその他の大人と同様に、あの映画「関心領域」で描かれた塀の向う側に送られ、塀のこっち側にいたナチスの役人達が話していた「大量焼却炉」で・・・・・。救えなかった贖罪がテーマとは見事な論点です。そんな彼に救いの手がなんと彼自身が常々嫌っていたテレビの馬鹿番組であったとは皮肉も強烈です。クライマックスは単なる番組スタジオ傍聴者と見せかけて、実はすべて命を救われた少年・少女の50年後の本人達とは、強烈なサプライズを仕掛けたものです。
一方1938年のニッキーはと言えば見かねてと言うにはリスキーな仕事に邁進してゆくが、その訳をユダヤ人ラビとの会話で明らかにされる。さらに彼の母親の有り様が後押ししたのは言うまでもない。この母親にヘレナ・ボナム・カーターが魅力たっぷりに演じ場をさらう。ニッキー約のジョニー・フリンはNetFlixの名作ドラマ「リプリー」とはまるで雰囲気を変えて、髪もダークヘアの変わりよう。よくよく見れば口元周りがアンソニーに似ており、キャスティングも周到です。あわせて現代の彼の華奢な妻役に「存在の耐えられない軽さ」1988年、「ハバナ」1990年などで有名な強い女のイメージのレナ・オリンが扮しているのは驚き。観ている最中はまるで分かりませんでした。
困っている人を助けるのは人間の真理、困っている人を生み出すのは政治の貧困。80年前に限らず現時点でも困っている人は激増しており、国際社会と言う政治の制約から何も成し得ない。結局政治ではなく個人の真理にすがるしかないのか。おかしいと思ったら民主であるうちに意志を表明するしかありません。国主になってからでは手遅れなのは歴史が証明してますね。