「この愛、劇薬。」愛はステロイド 琥珀糖さんの映画レビュー(感想・評価)
この愛、劇薬。
極端に説明しない“会話”と刹那的行動をする人々“を乾いた筆致で描くオフビートな作品でした。
あまりにも短絡的行動をするジャッキーの馬鹿っぽさ、
殺人の後片付けにひたすら掃除やら、死体運搬やら、証拠隠滅やらに、
粉骨砕身して邁進するルーの生真面目さに、
コメディとまでは言わないけれど、おかしさ爆発です。
ジャッキーとなんか出会わなければ良かったよ、ルーは、
・・・死体なんか
“ほっとけば一番良かったんだよ‼️“
とボヤキたくなりました。
☆☆☆☆
ルーの姉ベスのDV夫を、ジャッキーは殺したんだ。
そこから人生は暗転して転落し始める。
時代設定は1989年らしい(=ベルリンの壁崩壊した頃らしいので、)
場所はラスベガスの近くのカリフォルニア州の砂漠地帯にある田舎町。
●ルー(クリステン・スチュワート)とジャッキー
(ケイティ・オブライアン)が出会って愛情関係になったことから
巻き起こる惨劇=殺人事件の数々を
クールに疾走感あるカメラと音楽で綴る。
★ボディビルダーのジャッキーは、無一文でこの町に現れる。
移動手段はおおむねヒッチハイク。
・ラスベガスの《ボディビル大会に優勝すること》が最終目的。
•ルーの働くトレーニング・ジムに客としてジャッキーが現れて、
レズビアンのルーは、ジャッキーに惚れることになる。
(クリステンは実生活でもレズビアンを公表している)
バイセクシャルだと言うローズ・グラス監督はまだ38歳。
A24のコンセプトの一番は、新人監督(新しい才能)の発掘。
この作品ではローズ・グラス監督は、期待に大いに応えた。
それにしても、
ジャッキーの腕の《力瘤》《太腿の筋肉》に我が目が驚く。
昔ボディビルダーだったケイティ・オブライアンは身体を
作り直したそうだ。
殺人した途端に、巨大化してハルクみたいになるシーンのカラクリ、
(ステロイドの打ち過ぎで朦朧としていて、役に立たなかつたり)
が、面白いシーンだ。
ステロイドを打って二の腕の血管が浮き上がり、たちまち筋肉が
むくむくと盛り上がるシーンも面白い。
(1989年当時は大リーグでもステロイド禁止ではなかった)
ケイティ・オブライアンの美貌と美しいパーマヘアとの女っぽさと、
ボディビルダーがミスマッチでだが、
すぐキレるので、まともな仕事には向かない。
あれほど渇望したラスベガスのコンテストの終盤で、
ジャッキーの脳裏に浮かんだのはJJの首のもげかかった
死体のフラッシュバック。
ゲロ吐いて、敗退だ。
特筆すべきは、どの女も、自分の力で自活していないこと。
■父への依存
ルーは父親のスポーツジムに働いてはいるが、高いアパートも、高い車も
親係りだし、自立とは程遠い。
この町を出て行く勇気もない。
■DV夫への依存
姉のベスに至っては、半殺しにされても、JJがいなくなった、
JJが死んだと泣き喚き“愛していた・・・“とほざく大馬鹿女。
■
ルーの元カノのデイジーも、生業にはついてないホームレスの女。
●●町の顔役でルーの父親ルー・シニア(エド・ハリス)は、
娘のルーによって悪事を暴かれる。
ルーが谷間(裂け目)にJJを車ごと捨てたのは、そこが父親が邪魔者を
消して投げ捨てていた現場だったから、
JJの捜索で谷間からは骸骨がゴロゴロ出て来る。
《殺人の後始末》
JJの死体を発見したルー。
ルーは死体を発見されないように始末することを考える。
死体をJJの車に乗せてジャッキーが運転。
ルーは自分のピックアップトラックで先導して砂漠地帯を走り、
砂漠の中の割れ目(裂け目)に車ごと落として燃やしてしまう。
《締めくくり》
ルー・シニアに依存していた一族が崩壊。
ドラッグと銃槍で朦朧としているジャッキーと、
デイジーの死体の始末に、ここでも汚な仕事のルー。
カリフォルニアの空がやけに青い。
