「「虚」と「実」の間で迷う」八犬伝 えさんの映画レビュー(感想・評価)
「虚」と「実」の間で迷う
八犬伝は子供の頃に一度読んでなんとなくあらすじは覚えている程度。
現実?パートは役者や演出、美術も含めて非常にレベルが高い。役所広司の滝沢馬琴はザ・主人公。という感じで王道のキャラクターに感じたが、馬琴の目が見えなくなったあたりからその実力が目に見えてくる。
内野聖陽がとても素晴らしい。飄々としているけれど、その奥に芸術的なセンスを根底とする言い回しや態度がとてもカッコ良かった。
寺島しのぶのキャラクターは少々キツイが振り切った演技が素晴らしく、黒木華もこういう健気な女性を演じたら右に出る者がいないと思える程ハマっていた。
「虚」の八犬伝パートもかなりのダイジェストだろうが、ツギハギが解けて崩壊しない程度にはなんとか上手く纏めているとは思う。こちらは若手スター候補を引っ張る栗山千明が素晴らしかった。
映像も綺麗かつ、恐らく敢えて色彩やCG色を強め「虚」の世界であることがわかる様になっていて見やすかった。
正直な印象としては、「実」が重厚で見応えのある演出がされるのと「虚」側で壮大なファンタジーが描かれるのと、お互いがそれぞれの方向へ進むにつれて見ている側はその間で迷子になってしまう印象の映画だった。
八犬伝側は子供には楽しいが、大人には少々キツい。ダイジェスト感も相まって、夏休みのヒーローショーを見ている気分になる。
逆に馬琴側は大人には良いが、子供には虚実問答とか少し難しいだろうし、寺島しのぶはずっと怒っているし八犬伝側が見たいだろう。
交互に挟まれているのでリンクしながら進んでるのかとも考えたが、そういう部分もありそうだ。という程度でしっかりとは読み取れなかった。
またお互いの枠を取り合うことでそれぞれがしっかりと描ききれていないのも惜しいと感じる部分ではある。
最後の馬琴が八犬士に見送られる?シーンは感動的なんだろうが、なんかちょっと見ていてキツいな。というのが鑑賞後の余韻として残った。
伏姫1人に迎えさせるか、八犬士の後ろ姿だけ見せるなどさり気なく送り出してた方が良かった様にも勝手ながら思えたりする。