劇場公開日 2024年10月25日

「物語の虚と実の両面を巧みに組み合わせた一作」八犬伝 yuiさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5物語の虚と実の両面を巧みに組み合わせた一作

2024年11月2日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

江戸時代の名作小説『南総里見八犬伝』の作者、滝沢(曲亭)馬琴と葛飾北斎の交流を描いた場面が「実」ならば、馬琴の語りによって動き出す八犬伝の世界は「虚」。両者が絡み合って展開する創作世界の愉楽はさらに、物語の持つ「虚と実」の位相が加わることによって更なる深淵へ……。この構成は見事なまでに映画的ですが、これは本作独自の構成というよりも、山田風太郎原作『八犬伝』を踏まえたものです。時代を経て、山田風太郎の語り口の面白さを改めて認識させられるとは……。

日本映画の特撮は、いかに特殊効果をふんだんに用いたところで、ハリウッド超大作と比較するとどうしても技術的、予算的な限界を感じてしまうことが多いんだけど、本作はその「安っぽさ」を逆手にとって、「これはあくまで馬琴の描く空想世界なんですよ!」という見立てをしています。だからこそ、外連味たっぷりの活劇場面を心ゆくまで楽しんで(さすがに本作の設定で「史実と違う!」と批判する人はいないでしょう)、かつ馬琴と北斎の交流の滋味深さを噛み締めることができる仕組みになっています。日本映画にまとわりつく技術的予算的限界をむしろ活用して、物語的な面白さに結び付けている点は、非常に「うまい!」と感じました。

一見本筋との関連が薄そうな、馬琴(役所広司)と北斎(内野聖陽)が『四谷怪談』を観劇し、作者の鶴屋南北(立川談春)と対話する場面。現実と物語の「虚実」についての重要な議論が展開する意味でも興味深いのですが、この鶴屋南北は、本作以前の「八犬伝」の映画化作品である『里見八犬伝』(1983)を手掛け、後に『忠臣蔵外伝 四谷怪談』(1994)を作った深作欣二監督の姿を託したものでは……と感じました。その視点で見ると、鶴屋南北の「虚実」談義がさらにまた味わい深く感じます。

「八犬伝」の世界描写は、奇想天外なアクションの連続のように見えて、犬養信乃(渡邊圭祐)始めとした剣士たちそれぞれが際立つような演出が施されており、その点でも入念な作品作りと感じました。

ほぼ同時公開の『十一人の賊軍』と、アクション映画としての描写の違いをスクリーンで見比べるという、今しかできない稀有な体験を楽しむという手も。そして本作を面白く鑑賞した人には、ぜひとも深作版『里見八犬伝』の鑑賞をおすすめしたいです!

yui