「八犬伝を創り出した滝沢馬琴の作家としての信念と生き様」八犬伝 みかずきさんの映画レビュー(感想・評価)
八犬伝を創り出した滝沢馬琴の作家としての信念と生き様
予告編で大好きな八犬伝という言葉を見て蘇った過去の記憶に導かれて鑑賞した。
本作は、八犬伝の作者である主人公・滝沢馬琴(役所広司)の八犬伝創作活動パートと、八犬伝物語パートが同時進行していく。地味な実の創作活動パートと派手な虚の物語パートがバランス良く同時進行できるか心配になったが杞憂だった。実と虚を見事に融合した壮大で奥深い作品に仕上がっている。
創作活動パートは、演技巧者の俳優を揃え主人公の作家としての生き様に迫っている。主人公が八犬伝の原稿を友人の葛飾北斎(内野聖陽)に見せ興味を持った北斎が挿絵原案を書くというスタイルで進行する。生真面目で緻密な主人公、豪放磊落な北斎という性格の異なる二人の作品の実と虚の議論は原稿の進行とともに深まっていく。特に鶴屋南北も加わった作品の実と虚の議論は印象深い。現実に起きないからこそ勧善懲悪を虚として描く主人公と、どんな辛い現実でも直視しようとする鶴屋南北の激論は、読み手に何を伝えるかという作家としての信念のぶつかり合いであり迫力がある。見せ場だった。
主人公の創作活動は28年に及ぶが、創作意欲は衰えず最後は失明しながらも息子の妻・お路(黒木華)が口述筆記して完成に至る。なぜ、そこまでして彼は八犬伝を完成させたのか。それは八犬伝が彼の作家としての信念である勧善懲悪という虚の世界を描いた最高傑作であると確信したからである。八犬伝を通して読み手に実際には経験できない勧善懲悪の醍醐味を味わって欲しかったからである。
物語パートは最新映像技術を駆使して見応えがある。運命の珠に導かれた八犬士の出会い、そして里見家の滅亡を企てる怨霊との壮絶な戦いは圧巻の迫力。八犬士は若手俳優構成なので、新感覚のアクション時代劇の雰囲気が爽快。尺の都合でダイジェスト版になっているが、詳細追加すれば単独作品としても一級品だろう。
しかし、本作は敢えて創作活動と物語を一つに纏め、物語は作家の渾身の創作活動と信念によって生み出されることを強調している。今まで観てきた八犬伝より心に響く作品になっている。
コメントありがとうございます。
馬琴の希求した勧善懲悪の虚の世界は、おっしゃる通り希望になりますよね。
南北的作品で現実を見つめる視点も必要ですが、希望がなければ人は生きていけないと思います。
みかずきさん、共感・コメントありがとうございます。
この映画は、滝沢馬琴が「南総里見八犬伝」を書きながら、実と虚について問い続けたこと(鶴屋南北との会話に象徴されていますが)と、実と虚の映像を交互に見せるという構造が、素晴らしかったと思います。
コメントありがとうございました。
確かに「南総里見八犬伝」の作中に鉄砲が出て来たことも気になったのですが、みかずきさんご指摘の馬琴のセリフがあったので納得してました。時代劇調でないセリフ廻しも、その延長と捉えることが出来るのかも知れませんね。
少し納得出来た気がしました。
共感ありがとうございます。
深作八犬伝や新八犬伝を引き合いに不満を上げる人が多いようですが、まるきり別物と考えられないのか。深作版の様に一人一人と斃れていく設定でもない事、最終決戦も対怨霊でない原作を解ってほしいですね。