ある一生のレビュー・感想・評価
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ロープウェイはドイツ語でザイル・バーン、なるほど。
戦後復員してパワハラ養父に自分の健在をアピールしたうえで何もしなかったシーンがアンドレアスのプライドを象徴してかっこよかった。
数々の逆境に負けない誇り高い人生や独自の幸福感には感嘆するしかないが、一方、彼の自我はまさにその逆境ゆえに極端に狭められた世界で形成されたものであるから単純に賞賛するのは些か躊躇する。かといって、それを憐れむのは無礼だし、なかなか難しいなぁ…
天寿を全うした男の話
引き摺る男
背中で語るフツーの男のフツーの生涯
一人で居るのは孤独でもないし寂しくもない
でも、大切な人と出会いその人を失ったら寂しさと孤独を感じるだろう。「愛するマリーへ」で始まる小さい文字で書かれた手紙は、40年後に雪の中から見つかるだろうか。
遠い親戚に預けられた時からアンドレアスの目の光は強かった。神へ祈りをささげながら小さいアンドレアスに暴力をふり続けてきた養父の背丈を超えた彼はもう恐れない。唯一彼を大切にしてくれたおばあちゃん(『バグダッド・カフェ』のゼーゲブレヒト!)の死と共に一人の生活を始めるアンドレアス。自分の頭を超えたら、が人生の転機になっていく。家庭菜園のセロリがもう自分の頭を超える程大きくなったんだよと、愛するマリーに話しかける彼は輝いていた。寡黙な彼がたくさん話すのはマリーとだけだった。マリーに綴る手紙に、年をとったから背中が丸まって自分の頭より高くなりそうだと書いたアンドレアスはマリーが居なくてもマリーと一緒に年をとる幸せな人生を送った。
山は雪や風で人間を痛めつけるが、時間によって変わる山の色や涼気は人間の気持ちをひきしめて饒舌を諫め黙々と歩き考える世界に導いてくれる。
苦難と不運の一生を無骨に生きた男
原作は、ほとんど会話もコミュニケーションも取ろうとせず、心情も読者には伝わり辛い主人公アンドレアスの視点で描かれている。とにかく、こんな原作を映画化しようと考えた製作陣に頭が下がる。もし映像化すれば、下手をすれば起伏のない平坦な内容になっていたやもしれない。
そこで映画版では、無口なアンドレアスの心情を分かりやすくするために脚色をし、特にある人物の顛末に関して原作と変えている。こちらの方が確かにドラマ性が高くなっている。
『フォレスト・ガンプ/一期一会』や『大統領の執事の涙』で1人の人物を通して20世紀のアメリカを描いていたように、本作はアンドレアスの一生イコール激動の20世紀ヨーロッパの歴史とリンクする。
とにかくアンドレアスの人生は苦難と不運が続く。それでも人は生きる――人間賛歌の物語だ。
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