劇場公開日 2025年6月6日

「青、白、血色」国宝 まぬままおまさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0 青、白、血色

2025年9月27日
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『青 chong』で鮮烈な長編デビューを果たした李相日監督の最新作。吉沢亮や横浜流星などの役者陣の演技は素晴らしく、歌舞伎の世界を舞台にした本作はスペクタクルに富んで素晴らしい。
まさに『さらば、我が愛 覇王別姫』を彷彿とさせる喜久雄と俊介/半弥の波乱万丈な人生。役者とは、栄光と引き換えに色んな代償を背負う「美しい化け物」にならざるを得なく、舞台に人生を差し出すことは自分にはできないと思った。そういった意味でも、役者とは誰もができる職業ではないことを痛感させられる。

以下、ネタバレを含みます。

本作は上方歌舞伎の名門である花井家の「血」が主題であるが、その対抗となるものは「白」である。ファーストカットが、喜久雄の肌に白塗りが施されることであったように、「白」とは芸の表象であり、「血」を隠すことができるものだ。

喜久雄はヤクザの一族という血筋を隠して、芸の道に勤しむことができる。芸で観客を魅了させれば、生まれも何も関係ない。そう信じ、実際に喜久雄は半弥を差し置いて、半二郎の代役を掴み、最後には「花井半二郎」を襲名されるに至る。しかし悲しいかな、喜久雄は半二郎の本当の息子ではないから、舞台にも立てず没落していくのは、不条理でありつつ血縁の重みを強く感じてしまう。

喜久雄と半弥はいつも表舞台で輝き続けたわけではなく、人生において酸いも甘いも嚙み分ける。喜久雄は歌舞伎での成功のために「悪魔と契約し」、幼馴染の春江と別れ、舞妓の藤駒を内縁の妻とし、実の娘を見ないように。かといって、半弥は喜久雄に「半二郎」を取られ、春江を奪い、アンダーグラウンド舞台で生きざるを得ないように。半弥が再び歌舞伎の舞台に返り咲くと同時に、今度は喜久雄が破門にされ、彰子―森七菜と共に地方巡業する様は、底まで落ちたように思えるが、彼らは栄枯盛衰いろいろに人生を歩んでいく。

二人が「半半コンビ」として同じ舞台に立つのは、彼らの辛苦を思えばとても感動だが、それも長くは続かず。半弥は「血」の断絶かのように糖尿病のため左足を切断することになってしまう。

最後に二人が「曾根崎心中」を演じる時、白塗りの顔は涙に濡れて、彼らの〈本当の顔〉が現われている。泣いているのは喜久雄と半弥なのか、徳兵衛とお初なのかは分からない。いや人生の悲喜こもごもを味わった生身の人間の涙が、〈役〉の涙になったということだろう。それは役者が役に飲み込まれたということかもしれない。

でも「きれい」だと思う。

まぬままおま
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