「歌舞伎部分はすごいがストーリーにしわ寄せが」国宝 Bigcatさんの映画レビュー(感想・評価)
歌舞伎部分はすごいがストーリーにしわ寄せが
出演者の演技や、歌舞伎の映像など、どれだけの情熱や労力を費やしたらこれだけの作品が出来上がるのか想像も着かないほどでした。
原作未読のため、原作では描かれていたらなら申し訳ないですが、映像が素晴らしい分、かえってストーリーの不自然な部分や飛躍している部分が目についてしまいました。
例えばですが。なぜ俊介があのタイミングで戻って来るのか、違和感を覚えました。いちばん喜久雄に不都合なタイミングを狙って引きずり下ろすため、ということであればむしろわかるのですが。ある程度の衝突は描かれていたとはいえ、その程度でまた2人で舞台に立つくらいの関係にまで戻れるのだろうかと、今一つリアルに感じられませんでした。
また、家を飛び出した俊介は、もっと早く帰ってくるのであればまだしも、もはや喜久雄と共演できる可能性がゼロといえるほどの長期ブランクをあけてしまってからひょっこり現れても、勝算あるのかと。
喜久雄との技能差を埋めるべく尋常でないほど稽古をしたということなのかもしれませんが、その間喜久雄も立ち止まっているわけではなく自分の稽古をしているわけですし。もし俊介がそれだけの努力ができたのであれば、そもそも歌舞伎界から離れず済んでいたのではないかと思えてしまうので、不自然というか矛盾を感じてしまいます。共演ではなく、喜久雄をつぶして俊介ひとりが跡取りとなるため戻ってきた、ということだったらまだ納得しやすいのですが。
俊介が亡くなった後、喜久雄が人間国宝となるまでの経緯についても、映像ではほぼ何も描かれず不自然に感じました。喜久雄を支えようとした人物が、もともと俊介とその父しかいなく、その2人ともいなくなった不利な環境下で、どうやって喜久雄が人間国宝にまでなったのか、何もわかりませんでした。喜久雄を快く思っていない、その他全ての人々から引きずり下ろされても良さそうなのに、そうならなかったのは喜久雄が相当な苦労を経ての一大ストーリーがあったはずなのに、何も描かれていなかったのはなんとも奇妙です。せっかくタイトルが(人間)「国宝」なのに、映画ではそこがわからずじまいでした。あまり幸せそうにも見えず、支えとなっている人たちもどうも見当たらなく、謎のままでした。
歌舞伎の部分を20~30分削っても、その部分を描くべきではないかと思いましたが、映画興行的にはそういった地味と思われるシーンに時間を割くのは難しかったのでしょう。
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