正体のレビュー・感想・評価
全693件中、341~360件目を表示
現代日本版「逃亡者」
原作が小説とあって、物語としてはしっかりとしていた。主人公が逃亡者と分かっているため、潜伏先でのやり取りを、正体がばれないかという緊張感をもって楽しめた。ハリソンフォード演じた逃亡者が個の力で物語を進めていくのに対して、正体の横浜流星は、個の力に加えて社会の力という助けを得ていくところに引き込まれた。
一方で、こういう立場境遇の人は、こういう言動、風貌というのが、極端に型にはまっていて、それは主人公達を引き立たせて、物語を分かりやすくするためにはいいけれど、個人的には都度冷めてしまうというか、浅い印象を与えてしまったと感じた。
横浜流星は格好良くてとにかく絵になった。役者皆良かったが、特に山田孝之が組織と事件の狭間で揺れ動く中間管理職を渋く演じていた。
そういや「新聞記者」も浅かった。
正直、観て良かった。
原作未読。
良かった。観て良かったです。失礼ながら横浜流星(オジサン世代は横浜と言えば銀蝿)という俳優さんを存じておりませんでしたが、素晴らしかったです。役柄そのものでした!
劇中、日を経るごとに徐々に活力を取り戻していくとても繊細な演技をされています。また、終始訥々とした口調が守ってあげたくなるというか、それこそが主人公そのものであり監督が意図した人物像だったんだろうと思います。
前半は主人公と交わる助演4人とのそれぞれのストーリーで進行します。それを山田孝之演じる担当刑事が狂言回し的な立ちどころとなり大きな物語へと紡いでいくのですが、そもそも主人公は若くして(18歳)殺人犯とされました。人間性は全くの未完成です。そんな何者でもない主人公が、関わり合う者たちからほんの少しづつ心の欠片を分け与えられ、自分を取り戻していこうとします。そして関わる者たちは、無垢で純粋な主人公とのふれあいで自分がとっくに無くしてしまっていた心の欠片に気づくのです。主人公の風体や場所柄がガラリと変わるので、それぞれをオムニバス・ストーリーのように捉えてみてもいいかもです。観劇中に中だるみを感じないのはその脚本構造のおかげでしょう。
特筆すべきは最終盤のシークエンスです。黒澤明監督「天国と地獄」のオマージュを用いて4つのお話が合わさりエンディングに向けてクレッシェンドを強めていきます。この頃には涙腺が崩壊。主人公のカタルシス、交わる4人それぞれのカタルシス、それらが終幕に向けフォルテシモで大きな鐘を打ち鳴らすのです。(勝手に天使が舞い降りてくるイメージがわきました)
追:
ツッコミどころもあるっちゃありました。でも映画作品は観て愉しむ(泣く)もの
ごちそうさまでしたm(_ _)m
俳優さん一言
横浜さん:素晴らしかった
吉岡さん:お人好しで正義感ある役柄。ハマり役
森本さん:大根と感じたのは演技でした。結果論として良かった
安奈さん:子供の殻を破れない役柄をピュアに演じた
山田さん:この若さで安定のいぶし銀。さすが
素晴らしい俳優
横浜流星の演技が本当に素晴らしく、それにキャストもこれまた素晴らしくて見応えのある映画でした。
姿を変え名前を偽り生活しそれに関わっている人達が逃亡中の「鏑木慶一」だと気づいてしまった時の表情や心の動きに涙が出ました。でっち上げ捜査に葛藤している又貫の苦しみもよく伝わりました。ラストに向けての面会時の会話が感極まりましたね〜
横浜流星に泣かされた
原作未読。
公開直後の土日は空席がほとんどなかったため、1週間遅れの鑑賞となりましたが、まぁ女性客の多いこと。
そのほとんどが、主演の横浜流星見たさと勝手に推測する。
ストーリーはテンポ良く進み、無駄なシーンは一切無い。逆の見方をすると、駆け足で進んでいくので、明らかに端折ってる感もところどころあり、特に後半のエピソードは、もう少し時間を割いて丁寧に描写しても良いのではと思えた。
ともあれ、本作品での横浜流星の演技が素晴らしい。過去一いい。『流浪の月』の時は、本気で嫌いになったが(笑)、この作品で評価が爆上がりした。冗談抜きで演技の幅が広い良い役者さんになったと思う。同じく吉岡里帆もいい。
あくまで組織の一員としての立場を貫く刑事を演じた山田孝之もいい。
松重豊の憎たらしさは最高にいい。
っていうか、キャストの皆さんの演技は全員素晴らしい。
最後の方、鏑木(横浜)が語るシーンでは、不覚にも涙が止まらなかった。
隣の席のお兄さんも、しきりに涙を拭っていた。しかも両手で。
その隣の彼女さんは、ズルズル鼻水を啜り上げていた。
今年観た邦画の中ではベスト3に入るかな。
冤罪事件の怖さ、SNSの怖さ。そして袴田巌さんを思い出さずにいられなかった。
引き込まれた
冤罪の怖さ、組織の怖さ、先入観の怖さ
自分を信じる、相手を信じる、柔軟な余白を持つ
とはいえ、人間の優しさに漬け込む犯罪もあるから
優しいからいい人、というのも気をつけなければですね。
その辺は置いておいて
展開などがうまく、
引き込まれ、あっという間でした。
信じてみようと想う心の話
感想
藤井監督は染井為人氏の原作である真実の証明を命懸けで果たそうという囚人である主人公の、点を線で繋いでいく物語の過程で登場する人物とその時々のシチュエーションとエピソード毎に丁寧で細やかな演出とエッジの効いた、卓越した映像センスをもって描いており重厚で深淵な人間の尊厳と法の問題をよく纏め上げデフォルメしながら上質なサスペンス作品に仕上げていた。原作は不遜であり情報に疎く未読であったが、砂の器以来久々にあらためて小説としても読み直したいと感じる。◎
主演の横浜流星氏の渾身の演技が特に素晴らしく彼の代表作品となったと感じる。◎
人が人を信頼することとはどういう事なのか。その人が正しい人なのか否かを判断するためには、その事に対する行動や判断を人が正しく判断出来なければならない。当たり前の事だか公正な判断を下すという事はとても難しいことで様々な角度からの状況判断、またはあらゆる視点を持ちながら関わる人々が各々一つ一つ検証し証拠を固め積み上げて判断し、結論を出していくいわゆるあらゆる根拠と証明が重要なのである。この当たり前な事を成していく事がいかに時間と労力が掛かり大変な作業であるか。という事も本作でのテーマの一つであったと感じる。被疑者のどの様な主張をも聞き受け時間的にも検証内容についても端折る事なく法と照らし合わせ公正な判断が出来る成熟した法治社会システムであり法曹でなければいけない。それを創り上げるためには関係者一人一人が問題は何処にあるのかを強く感じ、願い、世論を形成できるように発言すること。またマスコミと法曹界は社会的責任を以って公正な実務を実践していく事を肝に命じる事で新たな時代に合致する判例を創り、積み上げる事が大切であるのだと感じる。また法治を司る警察機構もそう簡単に変わる事は難しいと思うが柔軟な視点と発想を以って行動するべきだと感じる。
現代の警察の捜査方法がいかなる方法でどのように犯罪であるとJudgementするのかは詳しくは知り得ないが、つい最近まで本作に描かれるような警察の杜撰な人権を軽視し偏在した思考と視点により被疑者へ脅迫強要する方法で本当に無実の者が罪に問われ、罪が確定してしまい拘留施設での刑期執行満了、あるいは執行処刑されてしまった事件は人知れずかなりの数存在したのではないかと想像させる。更に本作においては被疑者が身寄りのない未成年者であった事が被疑者の弁護の必要性をより低くする事に繋がり具体的自己弁護の余地をほぼ講ずる事なく当然であるべき被疑者の権利主張を警察が軽率に扱ってしまった事が問題の根本原因だと考える。自己弁護能力が低ければ低い程、能力ある国選をも厭わない弁護士を付ける事が必要であり、重要になってくる。
本当に無実の者が主張できる機会が日本の司法制度においては刑確定後には全く無い。法制度そのものが硬直化し見直しに時間ばかり掛かるのも問題であり現在の法治システムの詳細な見直しが叫ばれる話があるというのも頷ける。
演出と横浜氏の演技が素晴らしく優れており本日現在、今年度最優秀の日本映画と感じたので
⭐️4.5
個人的に感じたテーマとしては、"偽りの自分"と"真の自分"が衝突する作品だと思った🤔
横浜流星を一層輝かせる藤井監督
横浜流星と藤井監督が兄弟のような関係であることはよく知られている。観る側もついそういう意識を持って作品を見てしまう。だが恐らく、横浜流星という役者は撮る人も魅せられる輝きがあるのだと思う。この作品でも存分にその魅力は引き出されていた。変装し他人になりすまして逃げるという設定により、様々な表情や雰囲気を演じることになり、その無実を訴える逃亡犯はスクリーンの中でしっかりと生きていた。それ故、彼に関わった人達が影響を受ける様に説得力が生まれていく。
そもそもの警察の捜査や裁判の流れの描き方が若干雑で、突っ込みどころはあるが、その設定だからこその山田孝之なのかな、と思ったりもする。
出来過ぎだけど見終わって気持ちよく劇場をでられる作品。
シンプルで力強い
横浜流星さんが素晴らしい!
最初からストーリーに引き込まれ、適度にドキドキハラハラし、後味もよかった。
横浜流星さん出演作は、原作に惹かれて観た「流浪の月」と今作のみ。
「流浪の月」で、ヒロインのサイテーな恋人(モラハラ・ストーカー気質)を演じていて、主演の二人より横浜流星さんに惹かれた。
「正体」は、予告編を観て、すごく楽しみにしていた。
期待を裏切らない、大満足な作品だった。
鏑木の逃走した理由を聴いた時は、胸が震えた。
今年、袴田さんが無罪確定したことからも分かる通り、警察、検察、裁判所には、人の運命を左右する力がある。
それを肝に銘じて、仕事に邁進して欲しい。
この作品では、殺人と痴漢の2件の冤罪事件が出てくる。
初期の行動が、のちのちの面倒を引き起こすということを示している。
殺人現場では現場に立ち入らず、安全確保してすぐ通報が、痴漢ではその場から逃げ出さないことが、大事だ。
鏑木の無実を信じて、再審に向け活動する安藤さんたち。
再審には、お金も時間も気力・労力もかかり、道のりは遠く険しい。
鏑木のいた児童養護施設の職員(ロザリオを下げているのが印象的)が、おそらく鏑木にとって無罪を信じてくれそうな知己だろうけど、彼と交流しているかは不明。
映画のように、赤の他人が先頭に立ってというのは、現実ではなかなかないだろう。
自分なら、だれだったら再審請求の活動をするだろう、だれだったら私のために再審請求の活動をしてくれるだろうと考えた。
「人を心から信頼する」ということは、ホントに重い。
そして、もうひとりの主役、真犯人。
直接の触れ合いが激減し、個立化していく社会の中で、こういった事件を起こす人は、増えていくだろう。
20世紀は、自分が抱える不満や不安、さびしさを対面で他人と共有する機会がたくさんあった。
悩んでいるのは自分だけではないと実感でき、エネルギーチャージができた。
現代は、機器を通して、SNSなどでたくさんの人と共有はできるが、不満や不安、さびしさが晴れるどころか積み重なっていく感じがする。
スマホを持って5年9ケ月の私でも、人と会うよりlineでやり取りする方が楽と思う。
プライベートで対面で会うのは、互いを拘束しあうタスクで、そこまでして会いたい人は、どんどん減っていると実感している。
この流れは、これからより加速するだろう。
映画の中で、本を読みながら歩く高校生を久しぶりに観て、ますます鏑木を好きになった。
鏑木の今後を想像して、帰り道も幸せな気分だった♪
目的にまっすぐに生きる
................................................................................
民家に侵入して3人惨殺した罪で死刑囚となった横浜。
ある日自殺未遂を起こし救急搬送、その道中で脱走する。
まずは住み込みで工場で働き、同僚の森本と親しくなるが、
脱獄犯と気付いた森本が通報、横浜は一足先に逃亡。
優等生だった横浜には文才があり、ライターになる。
やがて記者の里帆の口利きでその出版社の専属となる。
さらに里帆は宿無しなことを知り居候までさせてくれる。
やがて第三者の通報により警察に踏み込まれるが、
里帆が身を挺して刑事を妨害、またも横浜は逃亡に成功。
時が経ち、横浜は長野の介護施設で働いてた。
そこには一家惨殺事件の唯一の生き残りのオバちゃんがいた。
PTSDになってたが、横浜は親身になって介護する。
実は横浜は無実で、事件後に被害者を助けようとしただけ。
当時オバちゃんは真犯人の顔を見たが、心神喪失しており、
警察は強引な事情聴取で横浜を犯人に仕立て上げた。
なのでオバちゃんに記憶を取り戻してもらうために、
横浜は脱獄して金を作って長野まで来たのだった。
ただその施設も警察に包囲され、横浜は立てこもる。
そしてそこにいた後輩の杏奈に生配信をしてもらう。
ついにオバが記憶を取り戻しかけた時に警察が突入、逮捕。
ただ一連の件で、無実の可能性を世間に示すことはできた。
森本・里帆・杏奈らが行動を起こしてくれたこともあって、
警察は再捜査せざるを得なくなり、無実が証明される。
................................................................................
いやー、これは面白かったなあ。
無実を晴らす唯一の方法と言える脱獄までして、
その一途な思いが報われることに感動した。
やっぱり人間、最後にモノを言うのは人間性なんよな。
横浜くん自身が素朴で浮ついたところのない印象なので、
まさにハマり役やと思った。共感して何度も泣いた。
収監されたのが18歳とかなので、彼は世の中を知らない。
しかも孤児だったか何だかで、施設で育った苦労人。
酒を飲んだこともなく、焼き鳥を食べたこともない。
だから酒を飲んで寝てしまったり、吐いてしまったり。
また働いたことも人や社会から信頼されたこともない。
だからちょっと信じてもらえただけで思わず涙ぐむ。
警察は杜撰な捜査で、こんな純朴な青年の人生を奪った。
ってか刑事部長の松重が犯人に仕立て上げたようなもの。
事件を手っ取り早く終わらせるために。最悪。
検挙さえできれば、それが真犯人がなくてもいい・・・
そんなことも抜かしてやがったな、この最低野郎は。
今回の松重豊さんの役は、ホンマにええとこなかった。
でもそれ以上なのが駿河太郎さん演じる社長。
パワハラ三昧、ってかふつーに暴力奮いまくり。
こんな糞野郎、今の時代いねーよってほどに最低過ぎ。
こんな役に名のある役者さん使わんでええんちゃう?w
あと気になってしまったのやが、里帆って無罪なの?
脱獄犯を匿ったうえ、逃亡の手助けまでしてる。
ってか里帆が邪魔しなければ警察は確実に逮捕できてた。
恋愛関係でもないのにそんな暴挙に出る男前な里帆。
それを呼び込んでるのは横浜の人柄と才能。
つくづく人間、最後は人間性なんよな~。
藤井監督の長編実写映画をいくつか観て来たが毎度作品のテーマが変わる...
日本版『逃亡者』?、否、それを超えたかも!
2024年、松竹。
【監督】:藤井道人
【脚本】:小寺和久、藤井道人
【原作】:染井為人
主な配役
【逃亡中の殺人犯・鏑木慶一】:横浜流星
【野々村和也】:森本慎太郎
【安藤沙耶香】:吉岡里帆
【酒井舞】:山田杏奈
【刑事・又貫征吾】:山田孝之
【又貫の部下・井澄正平】:前田公輝
【模倣犯?・足利清人】:山中崇
【唯一の生存者・井尾由子】:原日出子
【又貫の上司・川田誠一】:松重豊
1.脚本が素晴らしい
原作の流れを汲みつつも、
登場人物の数や設定(背景)は、かなり変更が加えられている。
結果的には、これが大成功していると思う。
限られた上映時間の中で、原作の意図をキチンと表現できているのではないか。
逃亡生活を追う前半部(大阪と東京)を観て、
「これをあといくつ観なくちゃいけないのかな」
と、やや飽きてきはじめたタイミング、
そう、実に絶妙なタイミングで急展開し始める。
◆警察に包囲される鏑木(横浜流星)
◆緊迫の突入シーン
◆又貫(山田孝之)との面会シーン
◆判決言い渡しのシーン
素晴らしい脚本、素晴らしい演出だった。
2.俳優たちの熱演が素晴らしい
主演の横浜流星はもちろんだが、
山田孝之、吉岡里帆、山田杏奈らの演技は作品全体の格調を高くしていた。
テレビドラマから始まった『逃亡者』は、
1993年にハリソン・フォードとトミー・リー・ジョーンズによって名作の仲間入りをし、
続編の製作やリメイクがおこなわれた。
本作は、日本版『逃亡者』かと思ったが、
本家を凌ぐほどの出来栄えといえる。
☆5.0ではないのか??
鏑木がいかにして、逃亡を続けられ、
◆作業員やライターになれたかの描写が、少しは欲しかった
◆音楽が物足らなかった
これをもって、☆4.5とさせていただきたい。
m(__)m
社会派映画としては少し違和感を感じたけど、まずまずかな
鏑木の死刑判決まで手際よすぎると思います。映画の中の回想シーンで、犯人の目撃者が1人いましたが、錯乱している状態で警察に通報できたのでしょうか?鏑木が殺害現場に来たとたん、すぐ警察が来ます。
警察が目撃者に鏑木が犯人かと問うと、うなずくだけで鏑木が犯人だと決めつけます。鏑木は「僕はやっていない❗️」と否定するのに。
もう1つに気になったのが、冒頭で鏑木は刑務所の中で吐血するのですが、命にかかわる危険な病気などにかかっていたのではなかったのですか?救急車の搬送中に、とても逃亡できるような状態ではなかったと思います。
横浜流星さんや山田孝之さんの演技は魂がこもっていて良かったです。
鏑木が逃亡中に出会う人々が温かく迎えるのは、鏑木が犯罪をする人柄ではないと感じたからでしょうね。
原作小説もぜひ
先に原作を読んで挑みました。
原作が大変面白かったので
少し期待せずに…(失礼)
原作の良さをしっかり残し
実写化にしっかり合わせた
見事な脚本だと思います。
原作ファンも大満足しませんか、これ。
原作では作者の染井為人氏があとがきで
鏑木慶一にその結末を詫びていたのが
とても印象的だったのですが
本作でそれが昇華されたように思いました。
小説の実写化で成功した作品は
個人的にとても少ないですが
これは文句なし。
山田孝之、横浜流星にしっかり
魅せられました。
真犯人の正体を暴いてよ警察!
公開前から観たくて観たくて、でも忙しくて、
やっと時間を捻出し鑑賞。
横浜流星はストイックに役に現実でなりきる人だから、殺人犯に現実でなりきることが出来ないのに役作りどうするんだろう?と心配していた。
そして、そうだ!だから横浜流星はやってないんだ!つまり冤罪逃亡者なんだ!と結論に至り鑑賞。
先に予想してしまっていたので、横浜流星の正体に怯えることなく、ひたすらに吉岡里帆の視点で見ていく。
養護施設で育っているから、守ってくれる人も、代わりに戦ってくれる家族もいない。
それでも、学生から死刑囚、死刑囚から逃亡犯となって、逃亡犯として初めて社会生活を味わった時、
どんな仕事でも周りの人に優しく、与えられた仕事以上を出す、逃亡犯として認知されてしまった「鏑木慶一」という名前の人物の、本当の姿が見えてくる。
関わったどの人も彼を悪く言わない。
殺人犯や逃亡犯が「正体」ではなく、
関わった人が感じ取った鏑木が、彼の「正体」。
下校中叫び声を聞いて、何事かと「失礼します」と家を覗いて、うめく人から左利きの手で鎌を抜いてあげた、その優しさが若い未来ある18歳の全てを変えてしまった。
友達ができ、お酒を飲み、外食して、恋をする、多くの若者にとって普通に味わえる成人の生き方全てを奪ってしまった、警察上位職の一存。
人の痛みに鈍い役に、松重豊。
1人でご飯を食べる孤独のグルメで映画が成り立つ俳優さん、私も好きだが、本作の役柄ばかりは許せない。
現場責任を取る刑事役に山田孝之。
どちらかと言うと逃げる側やとち狂う側が多かったような気がするが、キャリアを重ねて、幹部候補に載ってくるような責任ある刑事役がよく似合う。
横浜流星と対峙したら、世の多くは、もし彼が本当に殺人犯でも、騙されてしまうような気がするが、山田孝之は眼光鋭く疑惑の目をやめない。
司法の裁判が先に進み、先に死刑判決が出ているのが本当におかしな話だが、被告としての鏑木に動機は見つかっていないまま。
犯人を逃した事よりも、事件の衝撃で錯乱した被害者から無理やり言質を取り刑事として組織上位の意見の方を優先した事よりも、役割は捜査なんだから捜査をしておくれよ!
次の連続殺人が起きてから、「凶器が鎌だな、あ、あの時と似てる、模倣犯かな?」じゃないんだわ!
特に前田公輝。本質を見抜いてるぶって見えてない役がハマりすぎ。
それでも、真犯人と対峙し、進みゆく現実の事態から、山田孝之の目に映る鏑木の印象は少しずつ変わっていく。
若干の目の動き、眉の動きから、刑事の心情変化が伝わってきて、しっかりと、逃亡犯と向き合う刑事、の構図が成り立っていく。捜査に本気になるスピード、遅っ!ネット記事会社に情報を聞きに来るって、どれだけ怠慢なんだ!
真犯人の経歴から簡単に造園職と凶器は結び付いたはずなのに、そうすれば真犯人の存在アピールとも言うべき第二の犯行は起こらなかったかもしれないのに、眼力だけのとんだ間抜け刑事。こんなのが捜査担当になったせいで横浜流星が苦しんでいるじゃないか!と憤る。
でも、なぜ逃げたのかの質問に
「この世界をもう一度信じたかった。正しいことを正しいと言い信じて貰える世界。もっと生きたいと思った。」
と言われたら、刑事になった頃の正義感、再燃するはずだし、それは上司命令より勝るよね。
18歳が突然殺人死刑囚にされ、逃亡犯として自力で法律を学び、証拠集めしないといけない警察機能なんてどう考えてもおかしいし、お前何のためにいるんだよって存在になるもの。
勾留の面会室で、左に横浜流星、右に山田孝之の画は、弥生人と縄文人の対話に見えて面白かったが、若い鏑木が、稲作ではなく正義を人生をもって、刑事に教えた。その前から、撃ち殺して身柄確保できる場面で2度も仕留めなかったところから、鏑木が犯人と断定できる確信はなかったことがよくわかるのだが。信じる気持ちが少しでもあるのなら、検察じゃないんだから、仕事をちゃんとしてくれ!
警察の怠慢をよく知っている、弁護士の父親が痴漢冤罪で敗訴した記者役の吉岡里帆も、大々的に懸賞金をかけ連日報じられる鏑木と、会社に出入りするフリーライター那須くんに、確信はないがモヤモヤっと、あれ??と疑念を抱く演技が上手だった。見えない目撃者でも、真実に気付くまっすぐな女性を演じていて、本作もとても良かった。
森本慎太郎も、横浜流星と仲が良い平野紫耀の仲良しで、逃亡犯として鏑木が最初に働いた工事現場職の仲間にぴったりである。
鏑木を通して、ゴミだらけだった自室を片付け将来に向き合い、コミック本をくくって片付け、法律本や冤罪証明活動に向き合い始める。
もし鏑木がそのまま死刑になっていたら、養護施設を出て貧困から抜け出そうとするこの子の足掻く人生すらも、鏑木には与えられなかったと思うと恐ろしい。
精神を病んでしまった被害者から証言を得るために、被害者のいる介護施設に入り込み働いている鏑木も、同僚の若い子から好かれる程の人間的魅力があって。
逃げているから痩せ細っている横浜流星だが、だからか余計に関わる者の母性をくすぐる。
最後は結局、人間的な魅力が自分を救ってくれるのかな、という、当然で意外な、ご都合主義に見えてそういうものだよねと納得がいくような、人生の縮図を見たような作品。
「なんで俺だったんだろう」この世は赤の他人のテキトーな意見で、人の人生が簡単に書き換えられてしまう。こわい。
面会室の中で、冤罪を晴らそうとしてくれているメンバー1人1人と話す場面で、涙が止まらなかった。
死刑囚とは知らず、でも人間性に惹かれて好きになったら逃亡され、「もっと違う形で出会いたかったし、話したいことたくさんあるから早く出てきて」
という関係者の溢れ出す心の叫びが、それぞれの涙に溢れていて。
鏑木側は、そこまで信じて親身になって貰えた有り難みと、せっかく出会えて塀を隔てず話せた期間に、打ち明けたくても別人になりすますしかなかった、罪悪感と、正体を知られてから再会する気恥ずかしさが伝わってくる。
冤罪でどれだけのものを奪われるのか、世間の目に負けずに信じてくれる周りの人がどれだけ助けたくても、司法という障壁はどれだけ厚いことか。
その絶望と、痩せた横浜流星は、イエスキリストが十字架に架けられた時の姿となんだか重なった。
事件とは無関係の火傷。施設の生い立ち。他にも沢山傷付いて生きてきたのだろう。
出てから思いっきり陽の光を浴びて、人の温かさを沢山感じられる人生を謳歌してほしい。
もう左利きを隠す事なく。
テーマとして冤罪を扱うだけでなく、
冤罪関係者の心の機微まできちんと伝わるのは、
藤井監督と横浜流星の掛け合わせと、
良い俳優さんが結集しているから。
素晴らしい作品。
山田杏奈演じる介護施設の同僚の女の子の「自分からも周りからも逃げずに向き合うことにした」のあと、複雑で神妙な顔をして「僕は逃げてばかりだったけど」と言う鏑木くん、というか横浜流星と会話してみたい。
「おかえりなさい」「おつかれさまです」のような挨拶を、目を見てゆっくりと、優しく落ち着いて言う鏑木は、横浜流星が演じているから成り立っている。
鏑木の人物像は、横浜流星だからこそ築かれ、横浜流星だから作品の重みも人間味も喜怒哀楽を通り越した複雑で事細かな感情も、しっかりと可視化される素晴らしさ。
これからもずっとファンだし、私もゆっくり挨拶してみようかなと思った。
全てを握る真犯人の狂気の正体はわからずじまいだった。左利き、鎌、殺人、鼻水、ケーキ。。
全693件中、341~360件目を表示