「全体的なクオリティーは高かったが、ラスト感動しきれなかった」正体 なみとさんの映画レビュー(感想・評価)
全体的なクオリティーは高かったが、ラスト感動しきれなかった
全体的に、作品の伝えたいことや展開のスピード間もちょうどよく非常に満足できる作品だった。特にキャストさんの演技がすさまじく、描写も丁寧で、ハラハラドキドキさせられた。しかし、映画のラストで感動しきれなかったなと思ったため、星4という評価にした。
世間では殺人事件の容疑者として認識されている鏑木(横浜流星)の人間性に触れ、沙耶香(吉岡里帆)や和也(森本慎太郎)、舞(山田杏奈)たちが「本当に人を殺すような人間なのか」とそれぞれが疑問に思いながら、警察に訴えたり、信じてみたり、信じられなかったりと各キャラクターの心情に寄り添った没入しやすい演技だったように思えた。特に、沙耶香というキャラクターが特に感情移入しやすく、うすうす鏑木が殺人犯なのではないのかと気づきながらも、父親の冤罪の件や鏑木のやさしさに触れながら、彼の無実を信じて「逃げて、なすくん(鏑木の偽名)」と言う過程に納得しやすかったように感じた。好きになって、ずっと一緒にいたいと思える人が殺人犯だと知ったら、「自分は騙されているだけかもとか」、「ずっと怪しかったから」と鏑木の悪いところばかり目がいってしまうけど、信じると決めたことが演技力や丁寧な描写で納得させられたような気がした。
この映画の残念な点は、物語の締め方にあるかなと思った。特に言いたいのは警察の描かれ方だ。鏑木を犯人にした方が都合がいいからと大した根拠もなく、鏑木を犯人にし続け悪役として描かれ続けた警察側にお咎めがあまりなく、警察側が反省した様子があまり描かれないため、また冤罪事件起こしそうな組織だなと思った。警察の都合で勝手に殺人犯にされた鏑木の奪われた人生の343日間が報われるようなラストにしてくれたら感動できたかなと思う。ある刑事は、鏑木は犯人ではないかもとうすうす感づいていたにも関わらず、本当の最後の最後に罪を認めただけで、鏑木を罵倒し傷つけたこともそれでチャラにするような描かれ方だと思った。そもそも、警察側が無能に描かすぎていて、鏑木が犯人であると気づく人がもっといてもよさそうなのに、物語的に鏑木を追い詰めなければいけないからそうしたというような舞台装置的な役割になっていたような気がした。主人公の鏑木が無罪判決を受けたあと、いったん喜んで警官に殴りかかった方がすっきりするなと思った。「信じること」がこの作品のテーマだと思うが、「信じなかった人たち」の描き方がしっかりしていれば、正体というタイトルがより際立ったように思える。
ラストの描かれ方に不満がありますが、演技や描写、ストーリー、テーマが良くできていて、満足できる作品でした。