「期待したのですが」正体 Pocarisさんの映画レビュー(感想・評価)
期待したのですが
私はぜんぜんダメでした。
もちろん、横浜流星の演技はよかったと思う。
この監督は現実世界の警察の冤罪を招く捜査手法や間違いを認めない体質への問題意識は一応あるのだろう。しかし、一警官が幹部の意向に逆らって「誤認逮捕の可能性がある」と記者会見で認めるようなことは現実には起きないわけで、それが起きない組織や体制にこそもっとも根深い問題があるはずなのにその部分との対決は避けて、「こうであったらいいのにね」という展開が何か現状批判になると思っているなら大間違いだと思う。単に映画のリアリティを損なうばかりだし、むしろ現実の問題から観客の目を逸らしてしまうだけだろう。
警察幹部が「真実など問題ではない」と言葉にして述べたり、マスコミがハイエナだったりと、「どうせこんなもんでしょ」という安易な決めつけから発しているとしか思えないステレオタイプなキャラ描写もウンザリする。
なにより、鏑木とわずかに交流しただけの吉岡里帆をはじめとする数人が、冤罪の証拠を探して見つけたわけでもないのに「犯人ではない」と信頼するに至るのはなぜなのか。ここかいちばん重要なところのはずなのに描けていない。
弁護士を動員して捜査資料等を検証した後ならまだ分かるが、その前から「いい人だから」というそれだけで「信じます」っておかしいでしょう。殺人犯が普段はいい人だなんていくらでもありえることでしょうが。
すべては主人公の拘置所でのセリフ(これがまた拍子抜けするような内容)との整合性のためになされた強引な設定としか思えない。
後半の拘置所の主人公との各キャラの接見のシーンは本当に白けるのだが、こういうふやけた描写がいいと感じる人もいるのだろうけど、私はとにかく恥ずかしくてスクリーンを見ていられなかった。
描写が足りていない部分をエモーショナルな音楽で誤魔化したようなところもたくさんある。しかし誤魔化しはきれてないですよ。