「 記憶に新しい袴田事件や、一家殺人では免田事件などを連想します。が...」正体 hiroishiさんの映画レビュー(感想・評価)
記憶に新しい袴田事件や、一家殺人では免田事件などを連想します。が...
記憶に新しい袴田事件や、一家殺人では免田事件などを連想します。が、自白強要と警察側の決めつけで事が運ばれた時代とは異なり、あまたある防犯カメラや検証技術の発達した現代(多少は過去の話ですが)で設定しているこの物語において、ちゃんと検証すれば鏑木(演:横浜流星)が有罪になる可能性は低く、逆に最初の逃走時から最後まで、度重なる警察側との乱闘で、当事件は無罪となっても新たに公務執行妨害、監禁、殺人未遂が適用されるのではないかと思いました(冤罪となると全て免除でしょうか?)。法律意識もある人物設定ゆえに、この辺の行動に矛盾が見られ、米国なら射殺されて終わりでしょう。そうならなかったのは又貫(演:山田孝之)の悔恨と鏑木の戦闘力(笑)に他ならないと思いますが。
袴田事件で数十年の間、袴田氏を信じ続け、検察と闘ってきたご家族のパワーは測り知れないものですが、この物語で、鏑木と半年も関わっていない他人が鏑木を支えたパワーは何か。紗耶香(吉岡里穂)の鏑木への恋愛感情と、父を有罪とした法廷への復讐心、舞(山田杏奈)と野々村(森本慎太郎)は友情・尊敬と、鏑木を追い詰めさせた後悔の念? だとしても弱すぎて闘いきれないでしょう。ですが、この軽さ弱さを助けるように真犯人が現れ、更に事件目撃者が正気を取り戻しだし「冤罪確定」へと傾き始めます。そして終盤、観る側誰もが無罪と信じて進む判決シーンは無音の演出。
(まさか…)
そう思いました。ここでまさかの再審棄却の判決であれば、この世の矛盾や不条理、警察の闇を訴えるメッセージ力ある最高の演出だったのですが、そうならずにハッピーエンド。結局この物語はなんだったのだろうか。
とはいえ、後味悪くないのは、横浜流星さんは優しくカッコ良く、吉岡里帆さんは優しく美しく、山田孝之さんは先週観た「十一人の賊軍」とは一転したダンディな面が観られたから?
いろいろ突っ込みましたけど、それを覆す三人の要所要所の演技は素晴らしいものでした。