「太陽」正体 ブレミンさんの映画レビュー(感想・評価)
太陽
脱走した死刑囚が各地を転々と逃亡する様子と、彼に関わった人たちや警察との因縁を描く社会派な作品でテーマ的に冤罪というものに立ち向かっていく作品というところに興味をそそられましたし、藤井監督と横浜流星くんのタッグというところにも惹かれました。
演技力と演技力ががっぷり四つしていて圧倒されましたし、冤罪に対しての警鐘を鳴らすような見応えのある、心に深く刺さるドラマを2時間に詰め込んでおり食い入るように観て、観終わった後も喰らい続けていました。
資金調達→情報収集→潜伏といった流れで自身の冤罪を晴らすために動く鏑木とその土地その土地で出会う人々の交流もしっかり描いており、そこでの経験が鏑木の人生を彩っていくというある種の成長ドラマとしての側面も今作にはあるなと思いました。
最初に赴いた大阪での工事現場で出会った和也と最初は同じ従業員として生活する中で、和也が怪我をしたのに会社からの補填が無いことに対して持てる知識をフル活用して会社の代表に訴えかけにいく姿は根の優しさが滲み出ていましたし、あのような現場で代表が権力を振りかざしている様子は実際に見た事があるのでよく言ってくれた!と嬉しくもなりました。
和也が友達になろうぜと言ってくれたり、一緒にご飯を食べて酒も飲んでという初体験を共にしていて笑顔が溢れていたのも素敵でした。
そんな中でもコイツが鏑木なんじゃと疑ってしまってがために鏑木はまた違う土地へ、儚いけど仕方ないのかなと思いました。
都内に戻ってきて今度はライターとしての姿になっての情報収集をする中で、安藤にご飯を奢ってもらったり家に泊めてもらったり、一緒にドラマを見たりと誰かと生活をし、人を好きになるという経験を得て表情が朗らかになっていって安心感もありました。
安藤自身、父親が冤罪なのに罪を被る羽目になってしまっているのもあって、鏑木と分かっても匿って逃がそうとしてくれる姿には胸を打たれました。
そこからは介護施設で働き、そこで被害者遺族と接触しなんとか冤罪を晴らすための行動を起こしていく中で現代らしいSNS絡みでのトラブルが起きながらも、そのSNSを利用して最後まで諦めないで姿は凄いの一言です。
面会室でこれまで出会ってきた人々との再会、そして警察との対峙を得て、鏑木を信じ続けた人たちと新たな約束をして1歩前進していき太陽の光が射すようなラストでのフィナーレが美しかったです。
警察の陰謀は表面的だけではありましたが、その表面だけで、偉い立場の1人の意見を突き通してしまい無実の青年の人生を狂わせて、世間の認知を統合させてしまうのは中々に悍ましい描写でした。
18歳から少年法が適用されなくなるという犯罪法の改変を逆手に取って、半ば見せしめのような形で吊し上げるという残虐的な行動でしたし、ばんばん証拠が出てきたとしてもそれらをあやふやにしてなんとしてでも鏑木に罪を被せようという魂胆は人の心が全く無かったです。
被害者遺族に鏑木が犯人だと思わせようとして鏑木の名前を無理くり聞かせ続けて頷かせたというのもタチが悪いです。
もちろん粗というか展開の都合の良さは今作でも案の定ありました。
鏑木の変装が最低限すぎるので最初の髭面モサモサメガネはともかく、ライターとしての顔は茶髪に染めてマスクだったけど外したらそりゃバレるよですし、メイクでつり目にした時はこれは確かにバレない!と思ったらそこまでの出番は無く、終盤の前分けメガネは流石に分かりやすすぎる(意図的とはいえ)し、ネット民の断定速度を舐めてしまった結果、良い方向に向かったとはいえ身バレしてしまうしで奇跡的な確率を潜り抜けたようになってしまったのは残念でした。
週刊誌の記者が鏑木の見た目だけで即座に分かったところもなぁなぁですし、警察ってあんなに物損しまくって大丈夫か?となりましたし、安藤の上司の後藤はいつの間に鏑木に協力してたの?と疑問点も無かったことにのようにされてるのも惜しかったです。
事件の真犯人もどう考えたって証拠を残してるはずなのにそこへの捜査をせずというのも警察が杜撰だったとはいえ鑑識とか気にしないかなとも思ってしまったり。
横浜流星くんの感情豊かな演技にやられっぱなしでしたし、森本くんのめっちゃいい兄ちゃん感も最高でしたし、優しさ滲み出る吉岡里帆さんも最高でしたし、可愛らしい後輩感全開の山田杏奈さんも最高でしたし、冷徹さと正義感を持ち合わせた刑事の山田孝之さんも凄かったですし、松重豊さんの圧は半端じゃ無かったです。
濃厚な邦画が堪能できてよかったです。
藤井監督作では1番好きでした。是非ともこのコンビでまだ見ぬてっぺんを目指していってほしいです。
鑑賞日 12/2
鑑賞時間 17:30〜19:40
座席 C-6