「横浜流星と山田孝之が素晴らしい!」正体 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)
横浜流星と山田孝之が素晴らしい!
監督・藤井道人、主演・横浜流星というと、去年公開された「ヴィレッジ」と同様の布陣。「ヴィレッジ」もそうでしたが、いずれの作品も絶対的な2枚目の横浜流星が、強大な存在に抑圧され、その結果暗くて鬱屈した若者を演じており、その辺りのアンバランスが非常に魅力的でした。
本作では、横浜流星演ずる主人公・鏑木慶一が、高校からの帰宅時にたまたま残虐な殺人事件の現場を目撃し、直後に到着した警察に誤認逮捕されて、冤罪による死刑判決が確定してしまった後のお話でした。彼は拘置所で敢えて自傷行為に及び、病院に搬送される際に脱走して、自らの潔白を晴らすために関係者に接触するという展開になりました。
脱走後の鏑木は、まずは大阪万博っぽい建設現場で働いてその後の生活資金を稼いだ上で、東京に戻って件の殺人事件の記事を調べるために雑誌社でライターとして働く。さらには目撃者が入所している長野の介護施設のヘルパーとして働くなど、八面六臂の大活躍。しかも恐らくは逮捕後に法律を独学して、刑法などの関連法規だけでなく、専門家並みに労働法規の知識も習得。その上一流スパイも顔負けの変装を施して自らの「正体」を隠すなど、冷静に考えるとちょっと無理筋な話ではありましたが、2時間の映画にするためにはこれくらいテンポ良くしないとならなかったのだろうし、この壮大な映画的な省略とかご都合主義もまあ許容出来るほどにキャラクターの魅力が満載であり、それを演じた横浜流星が素晴らしかったです。
そして鏑木は、その場その場で出会う同僚たちに好かれていくという仕掛けが、後半になって効いてくるストーリーも非常に面白かったです。
何よりも一番の見所は横浜流星の変装で、特に建設現場で働いていた時の極端に猫背になった不格好な様子は、やり過ぎじゃねと思ったほどでしたが、その不気味な感じが非常に印象的でした。そして職場を転々とするごとに段々と素顔に戻っていく様子も良く、観ていて飽きが来ませんでした。
まさに横浜流星の良い所が存分に発揮された作品でしたが、物語として最後に主役を喰うほどの活躍をしたのが鏑木担当の刑事・又貫征吾を演じた山田孝之でした。当初から鏑木の犯行に若干の疑問を持っていた又貫でしたが、解決を急ぐ上司の命令で取り調べを進め、最終的に冤罪被害者を生むことになってしまいました。しかし逃走後の鏑木を再度逮捕し、彼から逃走の動機を聞くに至り、自らの過ちを認めることに。又貫並びに彼を演じた山田孝之のカッコ良さは終盤に来て際立っており、横浜流星とのダブル主演だったと言っても良いような描かれ方でした。先日観た「十一人の賊軍」では、役柄的に仲野太賀に喰われていた感がありましたが、本作では面目躍如という感がありました。
そんな訳で、横浜流星と山田孝之の良さを存分に味わえた本作の評価は★4.6とします。