「巡礼の旅」ハロルド・フライのまさかの旅立ち sokenbiteaさんの映画レビュー(感想・評価)
巡礼の旅
思ったより、宗教的なイメージを強く感じました。
といっても、ストーリーにそういう要素がたくさん入ってるというのではなく。
途中で世間からも「巡礼の旅」と扱われるのだけど、それよりもずっと、ハロルド自身の姿勢が、巡礼者のそれになっていると思いました。
その描かれ方は、真面目で、深いものでした。
正直もう少しハートウォーミングでほっこりする感じを想像してたのですが(見に行く人は概ねそうだと思うんだけど)そういうものとは少し違いましたね。
結末もそうなんですけど、やりとげて良かった、みたいに安易に言えるようなものではなくて。
旅の終わりに、主人公は灰色の海を見つめて、顔には笑顔もない。
旅はただ終わって、何が得られたわけでもなかった、と彼は言います。
そんなことない、あなたはやり遂げたんだ、それには意味があるんだと必死に諭す妻の言葉にも、表情が緩むことはない。
でもなんだか、その彼の険しい表情の中にこそ、言葉にならない答があるような気がしました。
厳しくも暖かく、誠実さを感じる終わり方だったと思います。
途中世間に注目されるくだりの都合よさとか、回想シーンが親子というより祖父母と孫にしか見えなかったりとか、いろいろ気になるところはあったのですが、、予想とは違う、静謐な余韻の残る良作でした。
最後の、登場人物たちが様々な形で、揺れ動く光に照らされる場面を見て思ったのですが、、神は気まぐれにこの世界のところどころに光を投げかけて、それに照らされることも照らされないこともある。
その見えざる意図を知ろうとして、もしくはそこに導きがあるのを信じて、人は巡礼の旅に出る。
その先にそれぞれが得る答こそが、例え望んだとおりのものでなくても、それこそが神の恩寵と言えるものなのかもしれない。
そんなことを思いました。
最後、道中出会った人々に光が差し込んだ、しかし息子を重ねていた中毒者や支持者とは別れ、イヌも別の人の方へ行ってしまった。この辺りが人生一筋縄ではいかない、宗教的な部分を感じましたが悪くはなかったです。