「【"贖罪と心の再生の旅"初老の男が昔の同僚のホスピスに入居する女性に会う為に英国縦断の800キロを徒歩で旅する中で様々な人と出会い、過去の悔いある人生と向き合い心を再生する様を描いたロードムービー。】」ハロルド・フライのまさかの旅立ち NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【"贖罪と心の再生の旅"初老の男が昔の同僚のホスピスに入居する女性に会う為に英国縦断の800キロを徒歩で旅する中で様々な人と出会い、過去の悔いある人生と向き合い心を再生する様を描いたロードムービー。】
◼️定年退職したハロルド・フライ(ジム・ブロードべンド)の元に、昔、ビール工場で働いていた時の同僚クイーニーが入院している英国北部のホスピスから"彼女が死の床にある。"と言う手紙が届く。ハロルドは返事を書くが、逡巡した後にホスピスに向かって歩き始める。
◆感想
・ハロルドは携帯電話も持たず、手ぶらで歩き始める。彼が最初にミルクを買った店の青い髪で、タトゥーを両腕に入れた若き女性に励ましの言葉を受けながら。
・彼は道中、様々な人と出会う。喫茶店で同席したパンを分けてくれたサラリーマン、確執があった息子デヴィッドに似たウィルフと言う酒とクスリをやっていた青年。そしてハロルドは青年と共に歩き始めるが、SNSでその様が拡散され、徐々にデモ行進の様になって行く。そして、ウィルフも再び酒とクスリをやり始め、ハロルドは再び一人で歩き始めるのである。
◼️旅の途中でハロルドが、歩きながら過去の悲しき出来事を思い出すシーン。
そこでは、息子のデヴィッドがケンブリッジ大学に入りながら、酒とクスリに溺れ、ハロルドに悪態を付き最後は縊死する姿や、その悲しみに依りハロルドを叱責する妻、モーリーンの姿である。ハロルドは息子に何も出来なかった自分を恥じ、妻との関係もギクシャクしていく。そんな彼は自棄になり、ビール工場のビール樽を次々に転がして行くのである。だが、彼の行為の罪を被り、馘首されたのはクイーニーだったのである。このシーンを観ると、何故ハロルドが、800キロの道を歩き彼女に会う決心をしたかが良く分かるのである。
・一人歩くハロルドに対し、出会う人達は優しい。水を所望する彼に快く、水を差し出す女性、道端に"ご自由に"と書いて野菜や果物を無料で籠に置く名もなき人達。異国の女医だった女性は倒れていたハロルドを自宅で介護し、ボロボロの足を治療し、彼女の元を去ったパートナーの事を話しながら彼にナップザックに必要な物を入れて、ボロボロの靴を渡すのである。
-異国の女医がハロルドを優しく治療する姿は、人は自分が悲しき境遇にあっても、他人に優しく出来るのであるなあ、とかなり心に沁みたシーンである。-
・妻のモーリーンも、ハロルドに隠していた事。それは、クイーニーが彼が留守の時に来て"気にしないで"と言う伝言を残していた事である。だが、モーリーンは"自分だけ、救われるなんて。"と言う思いで伝言を伝えなかったのである。
- 前半では、彼女はTVから流れるハロルドのニュースを直ぐに切るが、後半は彼の事を心配し、心優しき隣人レックスの車で彼に会いに来るのである。彼女がハロルドを赦したと言う事であろう。-
◼️ハロルドは漸く、クイーニーが居るホスピスに到着し、彼女に話し掛けるが、病状が悪化している彼女は反応しない。だが、ハロルドは彼女の為に持って来た水晶のネックレスを窓に下げ、帰るのである。
そして、ハロルドは妻モーリーンとベンチに座る。モーリーンは満足げなハロルドに対し、優しくキスをするのである。
ハロルドがクイーニーの病室に吊るした水晶を通した丸い反射光は、優しく彼女を照らしている。それに気付いた彼女は微かに微笑みを浮かべるのである。更には、ハロルドの旅する気持ちを後押しした青い髪の若き女性店員やサラリーマンにも、その反射光は届くのである。
<今作品は自らの過去の人生に悔いを持ちながら生きていた初老の男ハロルドが、元同僚のホスピスに居るクイーニーを励まそうと旅する中で様々な人達と出会い、自らの人生をしみじみと省みながら、徐々に心を再生して行く様を描いた、滋味深く心に染み入るロードムービーなのである。>