「「どっちもどっち」ではダメ」#つぶやき市長と議会のオキテ 劇場版 LaStradaさんの映画レビュー(感想・評価)
「どっちもどっち」ではダメ
本作をこの時期に公開できるなんて劇場としては「してやったり」のタイミングでしょう。
東京都知事選の開票日以降、毎日の報道番組を席巻している石丸伸二氏が、なぜ安芸高田市市長に立候補し、4年間の任期中に何をしたのかを検証したドキュメンタリーです。今春、本作の公開情報が出てから鑑賞を楽しみにしていたのですが、5月25日に先陣を切って上映を始めたポレポレ東中野では僅か1週間で公開を打ち切ってしまいました。また神奈川県では、6月29日から上映開始予定だった横浜シネマリンが、公開を7月下旬からに変更しました。どちらも、5月16日に氏が東京都知事選への出馬を表明した事を受けて、選挙への影響を考慮してのことだったのでしょう。それほど氏の都政進出は意表を衝くものであり、映画館のみならず本作の制作者も予想しなかった事なのです。そして、更に予想しなかったのは氏が都知事選の次点になるまでの票を集めた事です。支持者の方々にとっては「当然」と思える事でしょうが、僕にとっても驚きでした。そして、満を持して観た本作。確かに面白かったです。
政治家にとって最も大切な能力は「言葉で他者を説得する力」であると僕は信じています。その為には自分の言葉を信じて貰う事が必要で、その為に透明性は欠かせません。その点では現在の国政は目を覆うばかりの惨状です。全ては舞台裏で寝技の掛け合いで決まり、国会の場で語られる言葉は全て官僚作文棒読みで、記者会見では質問事項を前もって提出するという茶番劇です。血の通った言葉などどこにもありません。
さて、そこで本作を観て。石丸氏の Youtube 発信を観るようになったのは氏が都知事選に立候補してからでしたが、僕はこの人を全く好きになれませんでした。本作ではそれを確認する事になりました。「アナーキーな維新の会」とすら思えました。
氏の言葉は確かにスッパリした切れ味に響きます。でも、その言葉に「悩み」や「躊躇い」が全く感じられないのです。舞台裏での根回しは拒否して、議会のオープンな場で議論しようというアプローチには賛成だし、意思決定のプロセスを Twitter や Youtube で可視化しようとする考えも理解できます。しかし、上から目線で切って捨てる様な言葉遣いは余りに乱暴だし、交渉事がこんなに稚拙では行政府の長は務まらないだろうと思えました。
しかし一方で、市長からの発信を観て全国から支持者が増えたというのもよく理解出来ました。「少々はみ出ていても、こんな人でなければ旧態依然たる議会を動かせない」と思う人が居てもおかしくなく、そんな人々には欠点が長所に映ります。それほどに、市会議員らはジイサン社会にドップリ首まで浸かっているのでした。
つまりは、市長も議会も「どっちもどっち」なのです。しかし、「どっちもどっち」と涼しい顔をしていたら、日本は足踏みしたまま少しずつ後退りしていくだけです。「やれやれ」ではあるけれど、手遅れになる前に一人一人がしっかり意思表示し続けねばなりません。