「「壁」にひるまずにやるしかないこと」ぼくのお日さま 文字読みさんの映画レビュー(感想・評価)
「壁」にひるまずにやるしかないこと
2024年。奥山大史監督。北海道の雪深い町で、野球もアイスホッケーも上手ではない男の子は、フィギュアスケートの練習をする少女に目を奪われる。それを見た少女のコーチ(元フィギュア男子選手)は少年をフィギュアに誘い、しかも少女とのペアでアイススケート大会に参加しようとするが、、、という話。3人の視線のすれ違いから生まれる物語。
冬のアイスリンクのもやっとした薄暗い画質とにぶい光に対して、春の澄み切った青空の下で明確で引き締まった画質と強い光の対比が特徴的。あざといくらい。ドラマとしては、少年の吃音、コーチのゲイ、とキャラ盛りすぎの印象もあるが、少年は少女への憧れを簡単には表面できない「壁」(性格とは別の何か)を感じていなければならないし、コーチは少女の思いを受け入れるわけにはいかない「壁」(気持ちの問題とは別の何か)を持っていなければならないので、仕方がないと言えば仕方がないのかも。
少女が放つ「気持ち悪い」の言葉は、表面的にはコーチが同性を愛する男であることを指しているが、物語の過程から感じられるのは自分の思いが報われないことへの八つ当たりである。だから、確かに少女は自らの八つ当たりに気づけない(子供らしい)冷酷な一面をもっているのだが、同性愛差別をしているのではない。このあたりの描き方は単純なようで上手。
「壁」にひるまなかったコーチは少年と少女を近づけるという余計なことをして、結果として自ら職を失い、パートナーを失う羽目になるのだが、少年の「目」に人を思う純粋さを見てしまったコーチとしてはやるしかなかったのだろう。少年少女が二人で練習する場面に流れている至福の時間(滑り出しとともに動き出すカメラはもはやアステア・ロジャース的な幸福感があふれている)には得難い価値がある。