劇場公開日 2024年9月13日

「その視線の先に居る者」ぼくのお日さま ジュン一さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0その視線の先に居る者

2024年9月16日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

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北海道の少年スポーツの事情はこうなっていたのか。

たぶん物語りの舞台は小樽だろう。
夏場は野球。冬になれば積もった雪でグラウンドが使えないので
同じメンツでアイスホッケー。

でも、これじゃあ用具代が高額で、
よほどの金持ち世帯でないとムリな気がするのだが。

『タクヤ(越山敬達)』は吃音を同級生にからかわれ、
野球もセンターの背番号を貰っていながら、
練習中もぼ~っとしている。

アイスホッケーでもゴールキーパーを押し付けられ、
そこでも動きが鈍く、易々とゴールを次々に許してしまう。
打ち込めるものが無い、なんとも中途半端な日常。

そんな彼が、練習後に向けた視線の先に居たのは。

『さくら(中西希亜良)』は『タクヤ』よりも年長で
フィギュアスケートに熱中。技量もかなりのもの。

謝礼を払いコーチをアサインし指導を受けるが、
的確な指示に不満はないものの、
時としてコーチが自分を見てないのが不満のタネ。

『荒川(池松壮亮)』は嘗ては一流選手だったようだが、
今は現役を引退し、スケートリンクの管理をしながら
『さくら』のコーチも務める。

が、暫く前から、視界に気になる影の存在が。
『タクヤ』が『さくら』の真似をし、
アイスホッケーのシューズでフィギュアスケートに挑み転び続ける。

『荒川』は専用のシューズを貸し与え、時間を見ながら指導、
ある程度サマになったタイミングで
二人にアイスダンスへの挑戦を提案する。

最初の三人の視線は見事に三角関係。

それが二人がアイスダンスの練習を重ねるうちに
ベクトルに変化が生じる。

全てが上手く回り出したと思った矢先、
『荒川』が同性の恋人とじゃれあうのを目撃した『さくら』は
少女らしい潔癖さと視線の意味を曲解し、以降の指導を拒絶する。

三人の関係の線は、ぷっつりと千切れてしまったようにも見えた。

デビュー作の〔僕はイエス様が嫌い(2018年)〕でもそうだったように
『奥山大史』が撮ると寒々しい雪でさえ、
何故かふわりと暖かいものに感じてしまう。

差し込む柔らかい光線の具合も同様で、
凍てついた季節も、何時かはほころびる日が来ることを予感させる。

本作ではラストシーンでとりわけ明快に
それが示唆される。

思わず胸がきゅんとするような
希望に満ちた結末が。

ジュン一