「灯台下暗し。 やはりシャマランの子はシャマランであった…!!」ザ・ウォッチャーズ たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
灯台下暗し。 やはりシャマランの子はシャマランであった…!!
アイルランドを舞台に、謎の存在“ウォッチャーズ“に囚われた女性ミナとその仲間たちが暗き森からの脱出を試みる様が描かれたスーパーナチュラル・ホラー。
ペットショップで働く女性、ミナを演じるのは『オーシャンズ8』『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』のダコタ・ファニング。
製作を務めるのは『シックス・センス』や『アンブレイカブル』シリーズで知られる映画監督、M・ナイト・シャマラン。
その独特すぎる作風から、「シャマラニスト」と呼ばれる熱狂的なファンダムを持つ唯一無二のクリエイター、M・ナイト・シャマラン。
本作はその娘、イシャナ・ナイト・シャマランの監督デビュー作である。
アイルランドの陰鬱な森に潜む謎の怪物、ポツンと佇むマジックミラー張りの家、その中に住む奇妙な男女という正にザ・シャマランな建て付けと、何者かに観察されながら日常を過ごさなければならないという、正にザ・シャマランなストーリー。
やはりシャマランの子はシャマランというべきか、イシャナに濃厚なシャマランDNAが引き継がれている事がこの映画を観ればわかる。
雰囲気やストーリーだけでなく、設定やストーリーのガバガバさにもシャマラン節が炸裂。
ウォッチャーズの正体は太古の昔から生息している“妖精“であった!という大胆さはまぁ受け入れるとしても、かつて人間と妖精の間で戦争があって…とか、人間と妖精の間には“ハーフリング“という子供が生まれていて…とか、終盤になって唐突に詰め込まれる衝撃の真実の数々は、ただ映画を煩雑なものにさせているだけで特にプラスには働いていない。
家には秘密の地下室があった…!という展開も、驚きよりも「いやお前ら、死ぬほど時間があったのにカーペットの裏を調べてみる事すらして無かったのかよ…😅」という呆れの方が先に来る。というか、そもそもマデリンは地下室の存在を最初から知っていたはず。それを秘密にしていた訳とは…?
クライマックスの大ドンデン返しも実にシャマランらしい。こう言う「最後までチョコたっぷり」なトッポ的サービス精神は素晴らしいのだが、そのクライマックスがちょっと長い。また、ミナvsマデリンの修羅場を描きたかったのだろうだろうが、それにしてはバイオレンスも決着も弱い。
森から脱出出来た3人が観光バスに乗せてもらうシーン。実はそのバスの乗客は全員ウォッチャーズであり、それに気付いたミナの恐怖の表情が画面一杯に映し出されてジ・エンド…とか、そのくらい切れ味鋭く映画を終わらせて欲しかった。
暗い森の中で一方的な衆人環視に晒される男女、という構図は様々な寓意を含んでいる。それはSNSの匿名性であるかも知れないし、オーディションを受ける役者とプロデューサーや監督の関係性を指しているのかも知れない。横長の鏡張りはさながらスクリーンの様で、ウォッチャーズの正体は我々映画の観客だと言う見方も出来得るだろう。
その解釈に幅を持たせているのは良いのだが、肝心の「観られている」という感覚があまり伝わって来なかった点については苦言を呈したい。せっかく妙齢の女性を主人公に据えているのだから、もっと視姦の怖さやエグさを前面に押し出してもよかった筈。
また、閉じ込められた人間が皆そこそこいい人たちだと言う点にも勿体なさを感じてしまう。それこそ『ミスト』(2007)の宗教ババアや『新感染 ファイナル・エクスプレス』(2016)のクソジジイくらいのヒールがいれば、映画にサイコ・サスペンスの要素を加味する事が出来たかも知れない。
と、批判的な意見を書き込んではいるのだが、実のところかなり楽しめました。だって自分もまぁまぁのシャマラニストだもん。
確かに人間同士の汚い争いやエグい心理描写はなかったが、それによりホラー映画らしからぬ爽やかさが映画に生まれていた。セクシャルやバイオレンスな描写もほどほどなので、ホラーが得意ではない人にもオススメしやすいのではないだろうか。
陰惨な印象は弱めだが、だからといってホラー映画としてダメだという事にはならない。
個人的にはもっと怪物を映して欲しかったし映すべきだと思うが、ヌボーっとこちらを眺めているシルエットはなかなか恐ろしい。はっきりと映らない事が逆に恐怖心を煽る。
アイルランドの森林の陰鬱さは、鬱蒼とした日本の森林とはまた違った侘しさがあり、その点もこの映画のカラーと合っていた。また、その寂しさとは対照的な恋愛リアリティーショーが延々とブラウン管に流し続けられているという状況が、より強い絶望感を演出している。バカバカしさと怖さのバランス調整がとても上手い作品である。
何より、主人公を演じたダコタ・ファニングが良い。フェルメールの絵画から抜け出してきたかの様な、何処となく陰と儚さを孕んだ彼女の存在が森の寒々しさと見事に調和している。
絵空事のようなぶっ飛んだストーリーにも拘らず何処か上品さが漂っているのは、彼女によって作品がバロック美術的な風合いを帯びているからだと思う。
デビュー作にして見事なシャマラン節を見せつけてくれたイシャナ。そのまんま親父の作風を引き継いでいるため、オリジナリティに欠けているという見方も出来るが、今後の成長に期待したい。
余談だが、このイシャナ・ナイト・シャマラン監督、実はめちゃくちゃ美人である。だからなんだって言われると困るが、親父さんは普通のオジサンなのに娘は女優顔負けの美貌の持ち主…。そこはあんまり受け継がなかったのね。