「本作の好きな所を3つ書くわ」35年目のラブレター 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
本作の好きな所を3つ書くわ
寿司職人の保65歳。長年連れ添う妻・皎子とは仲睦まじく、2人の娘もそれぞれ家庭を持ち、孫にも恵まれ、一見幸せな人生。
しかし保は、読み書きが出来ない。貧しい生い立ちでろくに学校にも通えず、そのまま大人に。いじめや就職など苦労の連続…。
やっと寿司職人として手に職を持ち始めた頃、常連さんの口利きで見合いを。皎子の美しさの虜になり、互いに好き合い、結婚する。
読み書き出来ない事を言い出せないでいたが、ある時遂にバレるも、皎子は“あなたの手になる”と。
以来皎子に支えられ、苦労もたくさんかけた。
そこで一大決心。定年退職を機に、夜間学校に通い、妻にラブレターを書く…。
そんな保さんと皎子さんの実話に基づく。
って言うかこんなもん、温かく感動するに決まっとるやろ!
予告編を見た時は邦画あるあるお涙頂戴とあまり興味惹かれなかったが、実際見てみたら、予告編より63億倍ええ!
家でDVDでゆっくり見れて良かったかも。劇場で観てたら周りに人いながらも、ボロボロ泣いてたかもしれん…!
話は概ね上記の通りなので、本作の良かった所を3つ書くわ。
まず、キャスティングとキャスト皆の演技が素晴らしい。
笑福亭鶴瓶。ユーモアと哀愁滲ませ、佇まいも人懐っこい笑顔も何もかも自然体。鶴瓶師匠の素なのか、演技なのか。この人にしか出来ない唯一無二の味のある演技。
原田知世。大海のように…いや、大空のように…いや、大宇宙の如く広くおおらかな心。その優しさは温かい太陽のよう。何と心温まる演技。
重岡大毅。役者としてほとんど印象無かったけど、本作を見てびっくり! こんなに上手かったっけ…?! 若き保の真面目さ、不器用さ、苦悩を見事体現。本作に対して一部、読み書きが出来ない保の苦難があまり描かれていないとの苦言もあるようだが、皎子に読み書きが出来ない事がバレ、苦悶するシーンでこれまでの苦難を表していたと思う。
上白石萌音。現在の皎子を原田知世、若き皎子を上白石。このキャスティングをした人、天才だと思う。本当に原田知世の若い頃が上白石萌音で、上白石萌音が歳を重ねたら原田知世のように見えてくるほど雰囲気ドンピシャ! 無論その心温まる演技も。奥ゆかしく謙虚な可愛さだけじゃなく、結婚したら意外と強気でワイルド! 「ドラえもんかいな」のツッコミに本作一ウケた。そのギャップに、超絶惚れてまうやろー!
周りも好助演。
谷があって山があって恵みがある、夜間学校の先生、安田顕。何て素敵な先生。
保を雇ってくれた寿司屋の大将、笹野高史。こういう作品にぴったり。
親思いの2人の娘。世話焼き好きな近所のおばさん・くわばたりえ。ワンシーンだけだが皎子の親代わりの姉・江口のりこ。
皆が織り成す温かく優しい世界と輪に入りたいほど。
次に、ストーリー展開。
皎子に病が発覚し、実話基とは言え邦画定番の難病路線か…と、ちとトーンダウン。ついでにオチも読めた。
しかし、トーンダウンしたのはその時一瞬だけで、心満たされは終始変わらず。
遂に皎子に書いたラブレター。もっと喜ぶかと思いきや、「63点」と。その理由。
病で気落ちし、ついイライラ当たってしまう。その理由。
全て、保を思って。
保はラブレターを書けたら夜間学校を辞めるつもりでいた。
皎子の看病の為に夜間学校を辞めるつもりでいた。
学校を辞めて欲しくない。勉強を続けて欲しい。
もし私に何かあったら、あなたは一人で大丈夫…?
その為に、勉強を続けて。
病に掛かっても保を思う皎子。そんな妻に対し、保は申し訳なくなってくる。後悔してくる。
こんな俺と一緒になって幸せだったのか…? こんな俺なんかと一緒にならなければ…。
その真意を訊ねる事も出来ず、皎子は逝ってしまった。
亡き後、得意のタイプライターで書いた保に宛てたラブレターを見つける。
そこに書かれていたのは…。
ラブレターで感謝を伝えたかったのは保だけじゃなかった。
それくらい幸せだった。
素敵なご夫婦、立派に成長した娘たち、良き婿や可愛い孫たち。これ以上のない幸せな人生の証しではないか!
最後に、やれば出来る。
何かを始めるのに、遅いも早いもない。
皆いつだって、何かの一年生。
恥ずかしい事じゃない。
まだ学べるものがあるって、まだ人生が豊かになる事。
日本語は世界中の言語の中でも特に難しい。
ひらがな、カタカナ、漢字。同じ言葉で複数の意味。(例:くも。“雲”や“蜘蛛”)
日本語をマスターするのには数年も費やすという。それを我々は学業で補ってきた。それでもまだまだ知らない漢字や日本語は多い。日本語は広く、深い。
読み書きが出来ない人は意外と多いという。どんな事情あるにせよ、日本語を今から学ぶなど至難の技。
それを保さんはやってのけた。
皎子さんに宛てた素敵なラブレター。
長い歳月をかけて学んで書いたその字は、私より達筆!
まだまだ書きたい事はいっぱい。
皎子さんのモットー。嫌いなものでもいい所を3つ挙げたら好きになれる。
人生は“辛い”事ばかりだが、線一本ちょっとした事で“幸せ”になれる。何処かで聞いた事あるが、保さんが言うと説得力あり。
保さんが好きだった皎子さんの言葉で締め括りたい。
お早うさん。
お疲れさん。
ありがとうさん。
