蛇の道 : 特集
【柴咲コウが“狂怖の復讐執行人”に!】他人の徹底的
復讐を完全サポート!拉致監禁、えげつない拷問、そし
て爆発する殺意…黒沢清監督の邪悪&トラウマ級サスペ
ンスは豪華俳優陣らとの“狂演合戦”も凄まじかった
普通の作品じゃ満たされないあなたへ――“強烈なトラウマ”になり得る映画が、公開を迎える。
それが「蛇の道」(6月14日公開)。「岸辺の旅」「スパイの妻 劇場版」の鬼才・黒沢清監督が「僕のこれまでのキャリアの中で最高傑作ができたかもしれない」と語るほどの意欲作だ。
物語のベースは、1998年に誕生し、数々の人々に衝撃を与え今なお深い人気を誇る伝説の映画。同作を手掛けた黒沢監督が再びメガホンをとり、全編フランスロケで“邪悪な復讐劇”を現代に蘇らせている(もちろん、98年のオリジナル版を未鑑賞でもまったく問題ないように作られている)。
本作の特筆すべきポイントは、あまりにも“怖すぎる”柴咲コウが目撃できること。演じているのは、他人のリベンジに手を貸す“狂怖の復讐執行人”。容赦なしの“サポート”に恐れおののくだけなく、西島秀俊ら実力派俳優陣との“狂演”も圧巻。彼女の姿をスクリーンで目の当たりにした筆者は、ゾクッという感覚を通り越し、最終的に全身が凍りついてしまったほど……。
それほどの圧倒的狂気に直面する“震撼の映画体験”。震え上がる準備ができた方から、本記事を読み進めていってほしい。
【柴咲コウ史上最も狂ってる】えっ、そこまでやるの!?
謎の心療内科医役は“ヤバさのバロメーター”が臨界点突破
柴咲コウが演じているのは、謎めいた心療内科医・新島小夜子。自分自身の復讐……ではなく、「他人の復讐に協力する」という不可解な行動を見せるのだが、そのサポートぶりが“度を超している”。
拉致監禁は当たり前、えげつない拷問に、不意に殺意も爆発して……知れば観に行きたくなる、「え、やりすぎじゃない?」と呟くような“異常行動””の一部を紹介しよう。
[柴咲コウが静かに、しかし激しく狂ってる①]メリット0の復讐に加担……徹底的にサポート、でも時折見せる“絶対零度の目”が怖すぎる
小夜子は、8歳の愛娘を惨殺された父親アルベールの復讐に協力し、犯人と思しき者たちを拉致・監禁していく。復讐サポートには自分にメリットなんてないはずだし、時には命の危険にさらされるのに、何故か「私のことは心配しないで」と自身の安全は二の次だ。そして、誰もいないところでは急に、意味深な“冷徹すぎる目”になって……。この眼差しが物語の終盤に驚くべき意味を持つ。
[柴咲コウが静かに、しかし激しく狂ってる②]「そのままじゃ病気になる……だから、洗ってあげる」優しさor憎しみ? 監禁した男に“強烈放水”
小夜子は拉致してきた男の手足を手錠で繋ぎ、便意を訴えてもオール無視。心身ともにズタボロになっていく男の姿がかなり衝撃的だ。その姿を見かねたのか、小夜子はホース片手に近づいてきて「病気になるから洗ってあげる」。ところが放水のやり方がすごい。洗うというよりは、ほぼ“水責め”。観ている自分がもしもこれをされたら……こんな震え上がる映画体験、非常に稀だ。
[柴咲コウが静かに、しかし激しく狂ってる③]簡単に死なれては困るから……食事はきちんと作るが、唐突に“人間の尊厳”を完全破壊
監禁した男を過剰に痛めつけようとするアルベールに対して「簡単に死なれては困る」と冷静に告げる小夜子は、男の生命を維持するために食事もしっかりと用意(しかもきれいに盛りつけて)。憔悴しきった男のもとへ自ら食事を持っていき、男が喜びの表情を浮かべた瞬間……唐突に“人間の尊厳”を踏みにじるのだ。それも1度ではない。2度、3度と繰り返される蛮行に、あなたは口をあんぐり開けて呆然とするはず。
[柴咲コウが静かに、しかし激しく狂ってる④]いがみ合う男たちに魅惑的な“代案”を提示 えげつない人心掌握術で翻ろうする
あるタイミングから監禁された男が2人に増員(!)し、互いに“罪”を擦り付け合う地獄のような事態に。その光景をチラ見した小夜子は、アルベール不在の瞬間を見計らい「逃がしてあげるから、子どもを殺した犯人をでっち上げてほしい」と奇妙な提案。まるで釈迦が垂らした蜘蛛の糸のような“解放提案”だが、身の毛がよだつ”真の意図”が秘められていた。
[柴咲コウが静かに、しかし激しく狂ってる⑤]死んでいても、殺したい? 死体に歩み寄って、ナイフでめった刺し……唐突に爆発する“殺意”
「やはりこの映画、普通じゃない」と特に感じさせるシーンがここだ。
常に冷静沈着だった小夜子だが、急激に“目”の色が変わる瞬間がある。監禁していた男のひとりが死亡。遺体に歩み寄った小夜子は、手にしたナイフで一突き。さらに、刺して、刺して、ぶっ刺しまくる……!! その表情が怖すぎるが、そもそも既に絶命している者に対して、これほどの怒りを表出させるのは、一体何故?
以上、紹介した小夜子の行動はあくまでも一部。本編のすべてはもっとすごい。そして、これだけでは「小夜子が“復讐”に手を貸している理由」はわからないだろう。しかし物語の終盤、すべての点が線でつながった時、残酷かつおぞましい“真実”が浮かび上がってくる。キーワードのひとつは「人身売買」。劇場で驚愕のラストを目撃し、その衝撃に慄いてほしい。
【実は、全員ヤバかった】世界大注目の俳優が“怪演”
西島秀俊&青木崇高も“危険度MAX”のキャラクター
小夜子の“狂気”が異彩を放つ本作だが、実は“ヤバイ”のは彼女だけではない。いうなれば、登場人物が“全員狂っている”し、ときには「こいつ、小夜子よりも全然ヤバイのでは?」と思うような瞬間が度々ある。
そして、それらのキャラクターを体現した実力派俳優陣の“尋常ならざる芝居”の応酬に次ぐ応酬が、普通じゃない刺激を与えてくれる大きな要因だ。ここも絶対に観てほしい。
[ダミアン・ボナールもヤバかった]8歳の愛娘を惨殺されて“復讐の鬼”に 「レ・ミゼラブル」で注目を浴びた俳優が“タガが外れていく父親”を体現
本作には、カンヌ国際映画祭での受賞やアカデミー賞ノミネートを果たした「レ・ミゼラブル」のダミアン・ボナールが参加。彼が演じたアルベールは、小夜子とともに“復讐ロード”を突き進むうちに、おぞましい変化を遂げていく。
当初は気弱かつ優柔不断な面が目立っていたアルベールだが、徐々に復讐自体に楽しみを見出しているかのような態度の変容が起こる。ボナールの卓越した演技力も相まって、この“一線を越えていく”様子に異様な恐怖を感じるはず。
[西島秀俊もヤバかった]「もうだめかもしれない」人間不信で“絶望”が膨張……小夜子のもとに通う患者・吉村の異常行動&“生気のない”姿に震撼
黒沢監督とは5度目のタッグとなった西島秀俊が演じるのは、パリで心療内科医として働く小夜子の患者・吉村。この男の存在感が本当にとんでもなく、観客の“不安”を煽りに煽りまくり、特に金を払って観に行きたくなる名キャラクターだ。
担当医の小夜子に対して「出身は?」「家族は?」「結婚は?」と不躾な質問攻め。さらに人間不信に苛まれていて、生気のない表情で「通訳は嘘ばっかりつく」「もうだめかもしれない」と、今の御時世に非常にタイムリーな愚痴をこぼしたりする。
こんなにも暗く澱んだ絶望を表出させる西島の姿は見たことがない。しかも、物語終盤では想像だにしない“選択”も……唐突に訪れる“衝撃展開”に絶句するはずだ。
[青木崇高もヤバかった]異国に住まう妻・小夜子を気にかける“優しき夫”?それとも… オンライン通話に映し出される“表情”に奇妙な違和感
黒沢組初参加となった青木崇高が扮する小夜子の夫・宗一郎も要注目のキーパーソンだ。
劇中では、オンライン通話を通じて物語に介入。日本に住んでいる宗一郎は、パリで暮らす小夜子のことを日頃から気にかけている様子で、穏やかに話しかけ続ける。ところが、画面越しに宗一郎と対峙する小夜子の表情は、何故か氷のように冷たい……。この対比が相当、“不気味”だし、違和感が拭えない。
“違和感の正体”はやがて判明することになるのだが……筆者は、その“真相”に凍りついてしまった。
【レビュー】オリジナル版が“トラウマ”になっている男
邪悪すぎる進化を遂げた“極限の地獄”に悶絶する
最後は、実際に本作を鑑賞した映画.com編集部メンバーのレビューをお届けしよう。30代男性編集者で、オリジナル版の大ファン(2020年に新規発売されたHDリマスター版DVDも即座に購入したほど)。
「オリジナル版を“傑作”と評する人が、ここまで本作を楽しんだのか!」と感じられるレビューになっているので、ぜひ鑑賞するか否かの参考にしてもらえれば幸いだ。
●筆者紹介●タイトルを聞いただけで寒気がする……そんな作品を「スパイの妻」黒沢清監督が“再生”させる!?→継承された“最高の見せ場”に唸りまくる鑑賞後「もう二度と見たくない」と震えつつも、翌日には体が“あの衝撃”を欲しており、恐る恐ると再鑑賞――。オリジナル版「蛇の道」は、そんなことを延々と繰り返すほど魅力されてしまった“個人的傑作”です。
そんなタイトルを聞いただけで震え上がる映画が、黒沢監督の手によって“再生された”。しかも「これまでのキャリアの中で最高傑作ができたかも」という監督自身の言葉が添えられて――期待はめちゃくちゃ高まっていましたが、本作も“個人的傑作”の1本に追加されました。
まず注目したのは、オリジナル版の良い部分がしっかりと継承されていること。例えば“まるで絵画のような決めショット”も踏襲されていて、残酷&異常な光景が映し出されているのに“美しさ”すら感じてしまいます。
さらに、拉致した男を“袋”に格納し、緑地を全力で駆け抜けるという“作中屈指のアクション”もアップデート。重量級の緊迫感に充ちているのに、なぜか爽快である点がめちゃくちゃ面白いんです。しかも「最高かよ」と思わず呟いてしまった“見せ場”、このシーン以外にもわんさかとありました。
●柴咲コウが“新島役”、これって最高の配役じゃないか? 新たに生み出された“絶対に逃げない女”と“逃げ出す男たち”の対比構造で物語の魅力が増幅最大の改変ポイントは、柴咲コウの存在。オリジナル版では哀川翔が演じた“新島”にあたる役を担っていることが、新たな魅力を生み出しています。
黒沢監督は、新島小夜子役の柴咲コウについて「鋭く妖しい眼差し」を称賛していますが、この言葉は本編を見れば納得がいくはず。圧倒的な“目の芝居”から“只者でない”という雰囲気がひしひしと伝わってきます。テレビCMなどで観る彼女のイメージとは完全に異なっていた……その表現力に興奮を抑えきれず「柴咲さん、すごすぎる」と“心の声”が漏れちゃったほど。
さらに言えば、女性と男性の対比も面白いんです。小夜子は“復讐の場”から決して逃げ出すことはない。一方、アルベールは度々怖気づき、監禁される男たちも生存を求めて逃避し始める。
“絶対に逃げない”ひとりの女性と“逃げ出す”男たち。この構造によって、小夜子自身の強さ、執念、決意が底上げされているように感じましたし、人間ドラマとして“とんでもなく重い”。しかも“先読み不能のサスペンス”としての完成度も高く、シンプルに”ひとつの作品”としての満足度もめちゃくちゃ高かったんです。
●オリジナル版でも象徴的だったラストの“地獄” えっ、待って……“さらなる邪悪進化”を遂げているなんて聞いてないぞ……トラウマ、増えました鑑賞前、ひとつだけ(良い意味での)“不安”がありました。それは「あの“物語終盤の地獄”を再見しなければならないのか」ということ。
オリジナル版の“ラスト”は、今でも脳裏に刻み込まれています。描かれているのは“最も邪悪なテレビの使い方”(本作予告映像にもチラッと映し出されます)。それが本作でも継承されていて、気分がどん底まで急転直下。地獄の釜の蓋が開いたことに震え上がっていたのですが……本作は“釜の底”が抜けていたんですよ……あれ?……予想していたタイミングで、エンドロールが始まらない。
続けて映し出されたのは、オリジナル版の一歩先を行く“地獄絵図”。終焉でもあると同時に、新たな始まりとなる“トラウマを植え付ける驚愕のシーン”に凍りつきました。この展開、まったく予想できなかった……。
鑑賞後「あまりにも充実すぎる“映画体験”だったな」という思いと並行して抱いていたのは「邪悪すぎて、もう二度と直視したくない……」という“恐怖心”。そして、鑑賞から暫く経った“今”はもちろん“レベルアップした衝撃”を再見したくてたまらなくなっている。
あぁ、なんという中毒性……。オリジナル版未見の方はもとより、ファンの方々にも、黒沢監督が新たに提示した“地獄”で悶えてほしい。映画館に足を運べば、“あなた”もきっと「もう直視したくない」「でも、やっぱりもう一度“目撃”したい」をエンドレスリピートすることになるはずです。